神田田植唄 伊良子清白
神田田植唄
一
婿見嫁見よ御田(おんた)の田植
近鄕近在皆出た出たぞ
しかもすぐつた若衆と娘
晴の田植じや劣らずまけず
二
今日の吉(よ)い日の御田植はじめ
早苗(さなへ)取りましよ瑞穗(みづほ)のくにの
空は薄照り御田植日和(ひより)
水も豐かに流れ入る
三
紅色(べに)の笠紐お十七八は
聲も美(よ)い美いお顏も美い美い
手甲脛巾(はばき)は紺地の木綿
泥はついても身はきよい
四
男よ御田の若衆
露の玉苗綠にそよぐ
姿ばかりか情(なさけ)も意地も
村の譽れの名代(なだ)がそろた
五
賴みますぞよ苗取る人等
秋は見渡す穗に穗が咲いて
穰(みの)る千粒(つぼ)萬粒(つぼ)とても
みんな田植がはじめじや程に
六
苗は御寶千五百(ちいほ)の秋の
神の鏡の御田に插む
歌は流れる磯打つ浪か
苗は見る見る田に繁る
七
めでためでたの御田の苗は
うゑた若苗葉に葉がさして
根株はりましよ土深々と
伸びる本末(もとすゑ)百姓の手柄
八
早苗早苗に水みちみちて
映るみどり葉(ば)漣波(さざなみ)わたる
やあれさ早少女(さをとめ)笠ぬぐよ
植ゑた御田は綾錦
あやにしき
神のよろこび雲舞ひ立ちて
鷺も下り候神山(みやま)の使
歌ひをさめて植ゑ納め
うゑた御田は綾錦
あやにしき
[やぶちゃん注:初出未詳。前の「大漁參り」と並べられると、つい鳥羽での作かと思いたくなる。]