戲れに 清白(伊良子清白) (初出形)
戲(たはぶ)れに
わが居(を)る家(いへ)の大地(おほづち)に
黑(くろ)き帝(みかど)の住(す)みたまひ
地震(なゐ)の踊(をどり)の優(いう)なれば
下(くだ)り來(きた)れと勅(ちよく)あれど
われは行(ゆ)き得ず人(ひと)なれば
わが居(を)る家(いへ)の大天(おほぞら)に
白(しろ)き女王(めぎみ)の住(す)みたまひ
星(ほし)の祭(まつり)の艷(えん)なれば
上(のぼ)り來(きた)れと勅(ちよく)あれど
われは行(ゆ)きえず人(ひと)なれば
わが居(を)る家(いへ)の古厨子(ふるづし)に
遠(とほ)き御祖(みおや)の住(す)みたまひ
とこ降(ふ)る花(はな)のたえなれば
開(あ)けて來(きた)れとのたまへど
われは行(ゆ)きえず人(ひと)なれば
わが居(を)る家(いへ)の厨内(くりやうち)
働(はたらく)く妻(つま)をよびとめて
夕(ゆふべ)の設(まうけ)をたづぬるに
好(この)める魚(うを)のありければ
われは行(ゆ)きけり人(ひと)なれば
[やぶちゃん注:初出は明治三八(一九〇五)年九月発行『文庫』であるが、初出では総標題「夕蘭集」のもとに、先の「淡路にて」(「孔雀船」再録)に続いて本「戲れに」・「花柑子」(孰れも「孔雀船」再録)・「かくれ沼」(「孔雀船」収録の際に「五月野」と改題)・「安乘の稚兒」(「孔雀船」再録)の全五篇を掲げてある。署名は「清白」。初出形に直したが、「とこ降(ふ)る花(はな)のたえなれば」は「たへ」(妙)の誤り(「孔雀船」では直っている)。]
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