大漁參り 伊良子清白
大漁參り
東の村の娘さん
紅(べに)の裲襠(うちかけ)紅の帶
笠はすげ笠一文字
一さし舞うて神柄め
西の村の娘さん
自の裲襠(うちかけ)白の帶
笠は塗笠三度笠
一ふし歌うて神納め
玉のいさごの廣前を
しんづしんと步み寄り
大漁祝(たいれふいはひ)の御初穗(おはつほ)を
二人ではこぶ生(い)きざかな
正月二日(むつきふつか)の空たかく
銀の細鉤(ほそばり)お月さん
ちらりはらりと撒くやうに
きよめの雪が降り出した
[やぶちゃん注:初出未詳。行事から見て、やはり素材は鳥羽での景と私は読みたい。とするならば、その嘱目自体は「船は進む」の注で考証した、大正一一(一九二二)年九月十二日から昭和四(一九二九)年十一月以前を候補と出来るであろう。
「廣前」(ひろまへ)は「神の前」を憚って言う敬語。神社の前庭の謂い。
「しんづしんと」「しんづしんづと」の略。副詞「靜靜と」「しづしづと」の変化した語で、語り物の口調としてよく用いられる。
「生(い)きざ」は活魚の意の「生き魚(ざかな)」の略であろう。]