酒吞み唄 伊良子清白
酒吞み唄
上戶(じやうご)神樣下戶(げこ)乞食
上戶御宮(おみや)に鎭座まします
下戶は伊丹(いたみ)の薦(こも)かぶり
樽に目鼻のへのへのもへの
ごろりころげる道の上
上戶はあれど下戶はない
下戶のたてた倉もない
上戶長生き五百八十年
七福神はいづれも揃うてお酒吞み
天の美祿と申すとかや
八千代の樽酒でさく
花見て月見て雪見て暮らす
いつも正月
醉うてのむ酒とうたらり
鳴るは瀧の水
瀧の水さへ酒に成る
酒のみ櫓を押しや船が浮かれる
うかれるうかれる
海も山も踊り出す
踊り出したら縱橫無盡
天下におそるる敵はない
世界に憎い奴もない
やつさ飮め飮め
一寸先や闇よ
のまにや甘露(かんろ)が水に成る
[やぶちゃん注:初出未詳。
「下戶は伊丹(いたみ)の薦(こも)かぶり」初行で酒の飲めない「下戶(げこ)」を「乞食」と比し、「上戶(じやうご)」の「神樣」は「御宮(おみや)に鎭座まします」と振ったので、「下戶(げこ)」の「乞食」をかく「道」に物貰いする「薦(こも)かぶり」(乞食の異称蔑称)でさらに言い換え、それに酒樽として知られる「伊丹」の四斗樽を盛り飾る「薦(こも)」を掛けたもの。]