花柑子 清白(伊良子清白)
花柑子(はなかうじ)
島國(しまぐに)の花柑子(はなかうじ)
高圓(たかまど)に匂(にほ)ふ夜(よ)や
大渦(おほうづ)の荒潮(あらじほ)も
羽(はね)をさめほゝゑめり
病(や)める子(こ)よ和(なご)の今(いま)
窓(まど)に倚(よ)り常花(とこはな)の
星村(ほしむら)にぬかあてゝ
さめざめとなけよかし
生(いく)をとめ月姬(つきひめ)は
新(あらた)なる丹(に)の皿(さら)に
開命(さくいのち)貴寶(あで)を盛(も)り
よろこびの子(こ)にたびん
淸(きよ)らなる身(み)とかはり
五月野(さつきの)の遠(をち)を行(ゆ)く
花環(はなたまき)虹(にじ)めぐり
銀(しろがね)の雨(あめ)そゝぐ
[やぶちゃん注:初出は明治三八(一九〇五)年九月発行『文庫』であるが、初出では総標題「夕蘭集」のもとに、先の「淡路にて」と「戲れに」及び本「花柑子」(孰れも「孔雀船」再録)に続いて前の「かくれ沼」(「孔雀船」所収の際に「五月野」と改題)及び「安乘の稚兒」(「孔雀船」再録)の五篇を掲げてある。署名は「清白」。初出と「孔雀船」との異同はない。]