製茶の唄 伊良子清白
製茶の唄
志摩の前島(さきしま)
茶山の霞
つばめくるとて
茶を摘みあげて
戀の濃みどり
焙爐(ほいろ)の木の芽
あつうなるほど茶は蒸(む)れる
蒸れた木のめを
揉み揉みあふぐ
あふぐお茶子の品定め
一番茶二番茶
三番茶もござる、よ
おいらは四番茶
つみがらし、よ
[やぶちゃん注:初出未詳。
「前島(さきしま)」この複雑な半島部(グーグル・マップ・データ。「大王町」をポイントし、そこから左に大きく突き出る志摩町部分を含める)。志摩半島のうち、志摩市の大王町から志摩町にかけて英虞湾を囲む部分を「前島(さきしま)半島」と呼び、「前島」は「先志摩」「崎島」「先島」などとも表記する。
「焙爐(ほいろ)」木枠の底に和紙を張って火鉢などに翳(かざ)して茶を乾燥させる製茶道具。
「木の芽」はここでは異名としての山椒ではなく、茶葉のことを言っている。
「おいらは四番茶」/「つみがらし、よ」通常は商品としては「三番茶」(或いはそれを行わずに後の秋口になってから摘む「秋冬番茶」がある)までで、最初に摘む「一番茶」の新茶の爽やかな若葉の香りに対して、「四番茶」は瑞々しい香気も乾き枯れてしまった摘み残しということになる。「つみがらし」は名詞で「摘み枯(乾・涸)らし」か。当初は「摘んでおくれよ」という懇請かと思ったが、そうした方言を「がらし」の求めることが出来なかった。孰れにせよ、この一篇も一種、健康的な艶笑の匂わせを私は強く感ずる。]