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2019/04/21

山家冬景(斷章) (「南の家北の家」より拔抄) 伊良子清白

 

山家冬景(斷章)

 (「南の家北の家」より拔抄)

 

 

    ×

 

山の家は紅葉散りしより

色の彩(あや)剝(は)げたるあとの

荒彫の木偶(でく)の如く

常盤木の葉のみ黑みて

谷川の水は瘦せ

底深く沈む木の枝

衣(きぬ)浣(あら)ふ手の皹(ひび)いたく

水桶を擔(かた)げて登る

坂路に草履は滑(す)べる

さし覗く岩角高く

舞ひ下る落葉頻りなり

瀨の魚は梁の破れの流れを上り

石疊(いしだたみ)木の蔭暖(ぬく)き淵にぞ津(とま)る

草村の蟲は穴を求めて

赤土の雨無き所

霜負(しもまけ)の枯生に陰る

荊薪(おぴろ)たく竃の煙[やぶちゃん注:「おぴろ」は不詳。薪(たきぎ)のこととは思われる。]

白くのみ立のぼりつつ

その煙棚曳く時は

軒を行く一村しぐれ

冬籠(ふゆごもり)木部屋の屋根を

杉皮に厚く繕ひ

大雪の用心すると

置石(おきいし)の數を減らしつ

葡萄畠竹棚解きて

古茣蓙(ふるござ)に幹を被ひぬ

裏木戶に釘打つおとは

からびたる山に木精(こだま)し

猪垣(ししがき)の石冬ざれて

ふくれたる野鳩ぞとまる

雞は藪を求食(あさ)りて

枯れ殘る菊を啄(ついば)み

くくと噴きて人につかねば

拾飼(すてがひ)の世話なかりしも

藪寒く冬來るままに

仕事場に上ぼる日多く

籠(こ)に伏せて籠の窓開けて

餌(ゑさ)を撒く要なき手數

山陰は日の影うすく

張付の糊は乾かず

藪の前風强くして

病葉(わくらば)の枯笹捲かる

南壁干菜(ほしな)黃ばみて

唐辛子の紅(あか)きとほめき

冬乍ら小鳥來にけり

日だまりに針箱運び

何くれと繼(つぎ)を集めつ

剪刀(はさみ)の音ききゐたりけり

 

   ×

 

其夜の風は雪と成りて

後夜(ごや)すぐる頃はたと凪(な)ぎぬ

背戶(せど)の林に木の折るる音

谷の峽間(はざま)に猿の叫ぶ聲

一時(ひととき)斷えては一時續き

なほしんしんと積る雪に

老の寢醒の母は起(た)ちて

雨戶の隙より外をすかし

 

ほのかに煙る空を覗けば

霏々(ひゝ)として降る六つの花

夜は混沌の雪に閉ぢて

幽か(かす)に遠き闇の彼方

鄰の雞(かけ)は時をつくりて

まだ夜の深きを人に告げぬ

彿名(みな)を唱へて枕に就けば

雪の明りにいよいよ暗く

わが兒の寢姿さながら夢の

花の臺(うてな)に見たる如く

深き追懷(おもひで)老いたる人の

袖は慈愛の淚にぬれぬ

 

   ×

 

姿勝(すぐ)れし山の少女(をとめ)の

火影(ほかげ)に榮(は)ゆる白き面(おもて)は

春の陽炎(かげろふ)珠あたたかに

大空わたる白鵠(くぐひ)のとりか[やぶちゃん注:「白鵠(くぐひ)」白鳥(ハクチョウ)のこと。]

その時雪は少歇(をや)みと成りて

風一煽(あふ)り山より下ろし

竹の葉雪をふるひおとせば

後に彈(はじ)く幹の力に

三本(もと)四本(もと)强く打たれて

戛々(あつかつ)と鳴る琅玕(らうかん)靑く

頽雪狼籍竹影婆娑

皆紅(くれなゐ)の爐火に映(うつ)りぬ

 

[やぶちゃん注:標題から判る通り、既に電子化した、明治三三(一九〇〇)年十一月発行の二冊及び十二月発行の一冊の『文庫』に三回に分割して発表された長篇の物語詩「南の家北の家」を抜粋して手を加えて、改題したものである。伊良子清白はよほど本長篇詩に思い入れがあったものらしく、初出の電子化注でも示したように、複数回の抄出改作を行っている。次回、その別な改作版「南の家北の家」(明治三九(一九〇六)年四月発行の『白鳩』掲載版)を電子化する。]

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