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« 初陣 すゞしろのや(伊良子清白) (初出形) | トップページ | 避暑の歌 清白(伊良子清白) »

2019/04/07

駿馬問答 すゞしろのや(伊良子清白) (初出形)

 

駿馬問答(しゆんめもんだふ)

 

 

    使 者(ししや)

月毛(つきげ)なり連錢(れんぜん)なり

丈(たけ)三寸(ずん)年(とし)五歲(さい)

天上(てんじやう)二十八宿(しゆく)の連錢(れんぜん)

須彌(しゆみ)三十二相(さう)の月毛(つきげ)

靑龍(せいりゆう)の前脚(まへあし)

白虎(びやくこ)の後脚(うしろあし)

忠(ちゆう)を踏(ふ)むか義(ぎ)を踏(ふ)むか

諸蹄(もろひづめ)の薄黑色[やぶちゃん注:「黑」はママ。]

落花(らつくわ)の雪(ゆき)か飛雪(ひせつ)の花(はな)か

生(はえ)つきの眞白栲(ましろたえ)[やぶちゃん注:「たへ」はママ。]

竹(たけ)を剝(は)ぎて天(てん)を指(さ)す兩(りやう)の耳(みゝ)のそよぎ

鈴(すゞ)を懸(か)けて地(ち)に向(むか)ふ雙(そう)の目(め)のうるほひ

擧(あが)れる筋(すぢ)怒いかれる肉(しゝ)

銀河(ぎんが)を倒(さかしま)にして膝(ひざ)に及(およ)ぶ鬣(たてがみ)

白雲(はくうん)を束(つか)ねて草(くさ)を曳(ひ)く尾(を)

龍蹄(りゆうてい)の形(かたち)驊騮(くわりゆう)の相(さう)

神馬(しんめ)か天馬(てんば)か

言語道斷(ごんごどうだん)希代(きだい)なり

城主(じやうしゆ)の御親書(ごしんしよ)

献上(けんじやう)達背(ゐはい)候(さふら)ふまじ

 

    駿馬(しゆんめ)の主(ぬし)

曲事(くせごと)仰(あふ)せ候(さふらふ)

城主(じやうしゆ)の執心(しゆうしん)物(もの)に相應(ふさ)はず

夫(そ)れ駿馬(しゆんめ)の來(きた)るは

聖代(せうだい)第(だい)一の嘉瑞(かずゐ)なり

虞舜(ぐしゆん)の世(よ)に鳳凰(ほうわう)下(くだ)り

孔子(こうし)の時(とき)に麒麟(きりん)出(いづ)るに同(おな)じ

理世安民(りせいあんみん)の治略(ちりやく)至(いた)らず

富國殖産(ふこくしよくさん)の要術(えうじゆつ)なくして

名馬(めいば)の所望(しよまう)及(およ)び候(さふら)はず

 

    使 者(ししや)

御馬(おんうま)の具(ぐ)は何々(なになに)

水干(すひかん)鞍の金覆輪(きぷくりん)[やぶちゃん注:「すひかん」「きぷくりん」はママ。]

梅(うめ)と櫻(さくら)の螺細(かながひ)は

御庭(おには)の春(はる)の景色(けき)なり[やぶちゃん注:「けき」はママ。]

韉(あをり)の縫物(ぬひもの)は

飛鳥(ひちやう)の孔雀七寶(しつぽう)の緣飾(へりかざり)[やぶちゃん注:「ひちやう」はママ。]

雲龍(うんりう)の大履脊(おほなめ)[やぶちゃん注:「りう」はママ。]

紗(きぬ)の鞍帊(くらおほひ)

人車記(じんしやき)の故實(こじつ)に出て

鐵地(かなぢ)の鐙(あぶみ)は

一葉(いちえふ)の船(ふね)を形容(かたどつ)たり

※(おもがひ)鞅(むながひ)鞦(しりがひ)は[やぶちゃん注:「※」=「革」+「面」。]

大總(おほぶさ)小總(こぶさ)掛(か)け交(ま)ぜて

五色(しき)の絲(いと)の縷絲(よりいと)に

漣(さゞなみ)組(うつ)たる連着懸(れんじやくかけ)[やぶちゃん注:「れんじやくかけ」はママ。]

差繩(さしなわ)行繩(やりなわ)引繩(ひきなわ)の[やぶちゃん注:総ての「わ」はママ。]

綠(みどり)に映(は)ゆる唐錦(からにしき)

菱形轡(ひしがたくつわ)蹄(ひづめ)の錢(かね)

馬装束(うまそうく)の數々(かずかず)を[やぶちゃん注:「そうく」はママ。]

盡(つく)して召されうずるにても

御錠違背(ごじやうゐはい)候(さふら)ふか

 

    駿馬(しゆんめ)の主(ぬし)

中々(なかなか)の事(こと)に候(さふらふ)

駿馬(しゆんめ)の威德(ゐとく)は金銀(こんごん)を忌(い)み候(さふらふ)

 

    使 者(ししや)

さらば駿馬(しゆんめ)の威德(ゐとく)

御物語(おんものがたり)候(さふら)へ

 

    駿馬(しゆんめ)の主(ぬし)

夫(そ)れ駿馬(しゆんめ)の威德(ゐとく)といつば

世(よ)の常(つね)の口强(くちごは)足駿(あしばや)

笠懸(かさがけ)流鏑馬(やぶさめ)犬追物(いぬおふもの)

遊戲狂言(いうぎきやうげん)の凡畜(ぼんちく)にあらず

天竺震旦(てんぢくしんたん)古例(これい)あり

馬(うま)は觀音(くわんおん)の部衆(ぶしゆう)

雜阿含經(ぞうあごんぎやう)にも四種(しゆ)の馬(うま)を說(と)かれ

六波羅蜜(はらみつ)の功德(くどく)にて

畜類(ちくるゐ)ながらも菩薩(ぼさつ)の行(ぎやう)

悉陀太子(しつたたいし)金泥(こんでい)の龍蹄(りようてい)に

十丈(ぢやう)の鐵門(てつもん)を越(こ)え

三界(ぐわい)の獨尊(どくそん)と仰(あふ)がれ給(たま)ふ

帝堯(ていげう)の白馬(はくば)

穆王(ぼくわう)の八駿(しゆん)

明天子(めいてんし)の德(とく)至(いた)れり

漢(かん)の光武(くわうぶ)は一日(じつ)に

千里(り)の馬(うま)を得(え)

寧王(ねいわう)朝夕(てうせき)馬(うま)を畫て

桃花(とうくわ)馬(ば)を逸(いつ)せり

異國(いこく)の譚(はなし)は多(おほ)かれども

類稀(たぐひまれ)なる我宿(わがやど)の

一(いち)の駿馬(しゆんめ)の形相(ぎやうそう)は[やぶちゃん注:「ぎやうそう」はママ。]

嘶(いなゝ)く聲(こゑ)落日(らくじつ)を

中天(ちゆうてん)に回(めぐ)らし

蹄(ひづめ)の音(おと)星辰(せいしん)の

夜(よる)砕(くだ)くる響(ひゞき)あり

躍(をど)れば長髮(ちやうはつ)風(かぜ)に鳴(なつ)て

萬丈(ぢやう)の谷(たに)を越(こ)え

馳(は)すれば鐵脚(てつきやく)火(ひ)を發(はつ)して

千里(り)の道(みち)に疲(つか)れず

千斤(きん)の鎧(よろひ)百貫(くわん)の鞍(くら)

堅轡(かたくつわ)强鞭(つよむち)

鎧(よろひ)かろかろ

鞍(くら)ゆらゆら

轡(くつわ)は嚙(か)み碎(くだ)かれ

鞭(むち)はうちをれ

飽(あ)くまで肉(しゝ)の硬(かた)き上(うへ)に

身輕(みがる)の曲馬(きよくば)品々(しなじな)の藝(わざ)

碁盤立(ごばんたち)弓杖(ゆんづゑ)

一文字(もんじ)杭渡(くいわた)り[やぶちゃん注:「くいわたり」はママ。]

教(をしヘ)ずして自(おのづか)ら法(はふ)を得(え)たり

扨又(さてまた)絶險難所渡海登山(ぜつけんなんじよとかいとざん)

陸(くが)を行(ゆ)けば平地(へいち)を步(あゆ)むが如(ごと)く

海(うみ)に入(い)れば扁舟(へんしう)に棹(さを)さすに似(に)たり

木曾(きそ)の御(おほん)嶽駒(こま)ケ嶽(だけ)

越(こし)の白山(しらやま)立山(たてやま)

上宮太子(じやうぐうたいし)天馬(てんば)に騎(き)して

梵天宮(ぼんてうきう)に至(いた)り給(たま)ひし富士(ふじ)の峯(みね)[やぶちゃん注:「ぼんてうきう」はママ。]

高(たか)き峯々(みねみね)嶽々(たけだけ)

阿波(あは)の鳴門(なる)穩戶(おんど)の瀨戶(せと)

天龍(てんりゆう)刀根(とね)湖水(こすゐ)の渡(わた)り

聞(きこ)ゆる急流(きふりう)荒波(あらなみ)も

蹄(ひづめ)にかけてかつしかつし

肝(かん)臆(おぢ)ず驅(かけ)早(はや)し

いツかな馳(かけ)り越(こ)えつべし

そのほか戰場(せんぢやう)の砌(みぎり)は

風(かぜ)の音(おと)に伏勢(ふせぜい)を覺(さと)り

雲(くも)を見(み)て雨雪(うせつ)をわきまふ

先陣先驅(せんぢんさきがけ)拔驅(ぬけがけ)間牒(しのび)

又(また)は合戰最中(かつせんもなか)の時(とき)

槍(やり)矛(ほこ)箭(や)種(たね)ケ島(しま)

面(めん)をふり躰(たい)をかはして

主(しゆ)をかばふ忠(ちゆう)と勇(ゆう)は

家子郎等(いへのこらうどう)に異(こと)ならず

かゝる名馬(めいば)は奥(おく)の牧(まき)

吾妻(あづま)の牧(まき)大山(だいせん)木曾(きそ)

甲斐(かひ)の黑駒(くろごま)

その外(ほか)諸國(しよこく)の牧々(まきまき)に

萬頭(とう)の馬(うま)は候(さふら)ふとも

又(また)出(い)づべくも侯(さふら)はず

名馬(めいば)の鑑(かゞみ)駿馬(しゆんめ)の威德(ゐとく)

あゝら有難(ありがた)の我身(わがみ)や候(さふらふ)

 

    使 者(ししや)

御物語(おんものがたり)奇特(きとく)に候(さふらふ)

とうとう城(しろ)に立歸(たちかへ)り

再度(さいど)の御親書(ごしんしよ)

申(まう)し請(こ)はゞやと存(ぞん)じ侯(さふらふ)

 

    駿馬(しゆんめ)の主(ぬし)

かしまじき御使者(おんしゝや)候(さふらふ)

及(および)もなき御所望(ごしよまう)候(さふら)へば

いか程(ほど)の手立(てだて)を盡(つく)され

いくばくの御書(おほんふみ)を遊(あそ)ばされ候(さふら)ふとも

御料(おほんれう)には召(め)されまじ

法螺(ほら)鉦(かね)陣太鼓(ぢんだいこ)

旗(はた)さし物(もの)笠符(かさじるし)

軍兵(ぐんびやう)數多(あまた)催(もよほ)されて

家(いへ)のめぐり十重二十重(とへはたへ)

鬨(とき)の聲(こゑ)あげてかこみ候(さふら)ふとも

召料(めしれう)には出(いだ)さじ

器量(きりやう)ある大將軍(たいしやうぐん)にあひ奉(まつ)らば

其時(そのとき)こそ駒(こま)も榮(はえ)あれ駒主(こまぬし)も

道々(みちみち)引(ひ)くや四季繩(しきなわ)の[やぶちゃん注:「なわ」はママ。]

春(はる)は御空(みそら)の雲雀毛(ひばりげ)

夏(なつ)は垣(かき)ほの卯花鴇毛(うのはなつきげ)

秋(あき)は落葉(おちば)の栗毛(くりげ)

冬(ふゆ)は折れ行く蘆毛(あしげ)積(つも)る雪毛(ゆきげ)

數多(かずおほ)き御馬(おほんうま)のうちにも

言上(ごんじよう)いたして召(め)され候(さふら)はん[やぶちゃん注:「ごんじよう」はママ。]

拜謁(はいゑつ)申(まう)して駿馬(しゆんめ)を奉(たてまつ)らん[やぶちゃん注:「はいゑつ」はママ。]

 

この篇(へん)『飾馬考(かざりうまかんがへ)』『驊鰡全書(くわりうぜんしよ)』『武器考證(ぶきかうしよう)』『馬術全書(はじゆつぜんしよ)』『鞍鐙之辯(くらあぶみのべん)』『春日神馬繪圖及解(かすがしんばゑづおよびげ)』『太平記(たいへいき)』及(およ)び巣林子(さうりんし)の諸作(しよさく)に憑(よ)る所(ところ)多(おほ)し敢へて出所(しゆつしよ)を明(あきらか)にす[やぶちゃん注:以上の注は恐らく初出でも詩篇とは有意な字下げで配されていよう。「孔雀船」では全体が一字下げのポイント落ちで三行となっている。「鰡」はママ(「孔雀船」初版も同じ)。「騮」が正しい。]

 

[やぶちゃん注:初出は明治三四(一九〇一)年一月一月発行の『文庫』。「孔雀船」の掉尾を飾る。今回はさすれば、誤植・誤字を含めて校異に載るもの総てを初出形で復元した。

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