夜半の星 伊良子清白
夜半の星
天半(てんぱん)音無く
東海をのぼる星あり
八月上浣
冷露を浴びて
磯岸(きがん)に立つ
舟人(まなびと)はいと目敏(めざと)くて
すでに錨を拔きつ
暗黑の海なだらかにして
たたなはる四山死せり
淸き旦(あした)の來らんまで
なほここだくの時ぞあらん
萬象結びて蕾の如く
ひたすら祈願の夜半なり
[やぶちゃん注:次に注する「上浣」や「磯岸(きがん)」の伊良子清白にして特異な音読み、海と「たたなはる四山」(「疊(たた)なはる」は「幾重にも重なっている・重なり合って連なった」の意)のロケーションから、私は前の「聖廟春歌(媽姐詣での歌)」及び「大嵙崁悲曲(大溪街懷古)」に続く、台湾での嘱目吟がもとではないかと踏む。
「上浣」「じやうくわん(じょうかん)」と読み、上旬に同じい。「浣」は「濯(すす)ぐ」意で、唐代の制度では月の内、十日ごとに官吏に休暇を与え、自宅で入浴させたところから、十日を単位として「浣」或いは「澣(カン)」と称した。
「ここだくの時ぞあらん」「ここだくの」は「幾許(ここだ)くの」で、「相応に長い時間がまだあるようだ」の意。]
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