寢鵜捕り 伊良子清白
寢鵜捕り
島のお月夜
ころころ寢鵜(ねう)
羽根にうづめて
首がない
島の岩窟(いはや)の
お月さんはくらい
寢鵜は巢にねる
うづくまる
寢鵜を捕る船
月夜に來るよ
棹をさしさし
音もせず
寢鵜を捕るには
女がとるよ
白いをんなの
手がとるよ
寢鵜はころころ
月夜も知らず
ほわり抱かれた
手も知らず
寢鵜はとられて
月夜の船で
黑い羽根伸(の)す
首あげる
寢鵜の啼ごゑ
波々こえて
月の遠潮
よびかける
[やぶちゃん注:初出未詳。この「寢鵜捕り」というのは、恐らく嘗つて伊勢湾で行われていた鵜飼用のウミウ(カツオドリ目ウ科ウ属ウミウ Phalacrocorax capillatus)の捕獲を指すものと思われる。ウィキの「長良川鵜飼」によれば、岐阜県岐阜市の長良川で毎年五月十一日から十月十五日まで行われる長良川鵜飼で用いる鵜は、嘗て、『昭和初期までは伊勢湾』の『海鵜を捕獲していたが、現在は茨城県日立市の鵜の岬で捕獲している』とあるからである。伊良子清白のこれは嘱目か。ロケーション位置を特定出来ればいいのだが。鳥羽近辺でも行われていた可能性は高いと思う。識者の御教授を乞う。]