和漢三才圖會卷第三十八 獸類 木狗(もつく) (インドシナヒョウの黒色変異個体)
もつく 玄豹
木狗
モツ ケ◦ウ
本綱木狗在廣東山中形如黒狗能登木其皮爲衣褥能
運動氣血元世祖有足疾取以爲袴人遂貴重之此前所
未聞也又蜀川西有玄狗大如狗黒色尾亦如狗其皮作
裘褥甚暖冬月遠行用其皮包肉食數日猶温彼土亦珍
貴之【此亦木狗之屬】
△按疑此獵虎之屬乎【獵虎見于後】
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もつく 玄豹
木狗
モツ ケ◦ウ
「本綱」、木狗、廣東(かんたう[やぶちゃん注:ママ。広東省。ここ(ウィキの「広東省」の地図)。])の山中に在り。形、黒き狗のごとし。能く木に登る。其の皮、衣・褥〔(しとね)〕に爲〔(な)〕り〔て〕、能く氣血を運動す[やぶちゃん注:気や血流をよく動かして身体を健康にする。]。元の世祖、足の疾〔(やま)〕ひ、有り。〔これを〕取りて、以つて、袴〔(はかま)〕と爲せり。〔故に〕、人、遂に之れを貴重とす。〔このこと、〕此れより前〔には〕未だ聞かざる所なり。又、蜀の川の西に、玄狗、有り。大いさ、狗のごとくにして、黒色、尾も亦、狗のごとく、其の皮、裘〔(かはごろも)〕・褥と作〔(な)さば〕、甚だ暖かなり。冬月、遠く行く〔に〕、其の皮を用ひて肉食を包めば、數日〔(すじつ)〕、猶ほ、温かなり。彼の土にも亦、之れを珍貴とす【此れも亦、木狗の屬なり。】。
△按ずるに、疑ふらくは此れ、獵虎(らつこ)の屬か【「獵虎」は後に見ゆ。】。
[やぶちゃん注:これは叙述から、ネコ目ネコ科 Pantherini 族ヒョウ属ヒョウ Panthera pardus の劣性遺伝により突然変異した黒変種の黒豹で、特に中国の広東地方となれば、亜種インドシナヒョウ Panthera pardus delacouri(東南アジア・中国南部に分布)でよかろうかい。ウィキの「ヒョウ」によれば、その発生機序は全くの突然変異であることから、『親兄弟が通常のヒョウであっても発生』し、また、『クロヒョウもヒョウ特有の斑紋を有しており』、『赤外線』を『照射』することで、それを視認することが『できることが分かっている』とある。しかし、普通に視認しても、よく見ると、豹柄は確認出来る。「black Leopard」出掛けたグーグル画像検索を見られたい。「黒いジャガーやないんかい?!」とツッコミ入れはる関西の豹柄姐(あね)さんがおると困るから言うときますと、「姐さん、ジャガー(ヒョウ属ジャガー Panthera onca)は新大陸産(北アメリカ南部と南アメリカ大陸)にしかおりませんのや」。
「元の世祖」元王朝の初代皇帝(大ハーン)クビライ(漢字表記・忽必烈 一二一五年~一二九四年)。彼が足に疾患があったことは知らない。識者の御教授を乞う。
「蜀」現在の四川省、特に成都付近の古称。やや北ではあるが、インドシナヒョウの棲息域に辛うじてかかる。]
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