遠い熊野の 伊良子清白
遠い熊野の
遠い熊野の
沖合で
月の夜更に
錨打つ
七里御濱(みはま)の
荒濱も
波は靜かや
人の聲
空は月夜の
玉霰
しきりに人の
喚(よ)びたつる
波の起臥(おきふし)
からころと
轆轤(ろくろ)まはしの
帆をおろす
[やぶちゃん注:初出未詳。前後の一連の小唄風詩篇と同時期と考えてよかろう。
「七里御濱」「しちりみはま」と読み、現在の三重県熊野市から三重県最南端の南牟婁郡紀宝町(きほうちょう)はにかけて熊野灘に面した浜の固有名。旧熊野古道の伊勢路の一部。ここ(グーグル・マップ・データ)。鳥羽からは海路実測で百三十キロメートルを有に超えあり、直線距離でも百三キロメートル(浜の中間部の南牟婁郡御浜町基準)ある。
「轆轤」「絞車(きょうしゃ)」とも呼ぶ船具。平安後期以降、大型和船の艫(とも)やぐら内部の左右に設けて、帆・伝馬船・碇・重量荷物などの上げ下ろしに用いた船具。巻胴・轆轤棒・轆轤座:身縄・しゃじき棒・飛蝉などからなり(全体の形状や各部については引用したネットの小学館「精選版 日本国語大辞典」の附図を参照)、今日のウインチに相当する。]