暴風雨の日に 伊良子清白
暴風雨の日に
暴風雨が村落を襲ふ
一本の草一粒の砂をも殘さず
もろもろのいとなみを無(な)みして
押し流しふみにじる
山嶽を海洋を平野を
鏽銹(さび)を沈澱(おどみ)を染斑(しみ)を
吹き上げ吹き下ろし
洗ひ轉(まろ)ろがし淸めつくす
白晝を黑夜(こくや)に變じ
人間を自然に奪還する
暴風雨の叫喚に
淸亮(せいりやう)な角笛(かく)の響がある
溷濁(こんだく)の騷擾の破滅の
殺戮の間に
一道(だう)の金氣(きんき)立ち昇り
萬物蘇生の額(ぬか)を現はす
はてしもない空洞(うつろ)を
風雨は吹き荒(すさ)ぶ
明日(あす)の日の太陽は
香(かん)ばしく輝くであらう
[やぶちゃん注:「船は進む」の私の冒頭注を必ず参照されたい。
「金氣(きんき)」五行の「金」は冷徹・堅固・確実な性質を表わし、何よりここはロケーションの時制である「秋」が「金」に配されていること、それが収獲・豊饒・再生を象徴させるように表現されているものと私は読む。]