夜行列車で……
大学4年の夏、ゼミの合宿の帰り、深夜の誰も乗っていない上越線の鈍行に渋川から乗り込み、富山方向に帰ろうとした。
誰も乗っていない――そこに三十ほどの青年が前の車両からやってきた。
山歩きの格好をしているが、何も持っていない。
「ここ空いてますか?」
と私のボックス席の向いを指差した。
当然、空いているから「はい」と答えるしかない。
「山登りをしようときたのですが、リュック一式を盗まれましてね……」
と彼は言った。
そうして、彼は、ぽつりぽつりと、身の上話をし始めた……
「……自分は元航空自衛隊のパイロットだったんですがね……練習中に……エンジンにトラブルが起きたのです……」
「……後ろの座席に上官が乗っていたんですが、即座に『脱出しろ!』と言うのです……」
「……躊躇していましたが、再度、命ぜられて、脱出用のレバーを引きました……」
「……でも……上官は何故か……脱出出来なかった……装置に不具合があったのかどうか……私には……分りません……」
その事故は知っていた。
数年前の日本海上空での事故であった。
パイロットが助かり、指導教官が亡くなったことも覚えていた。
……そのまま……彼は黙って……真っ暗な窓の外を……見詰めていた…………