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2019/04/15

琴の音 伊良子清白

 

琴 の 音

 

梨の花月にこぼれて

千里(ちさと)まで霞む春の夜

岸に沿ひ流るる琴の

二つなき響をききぬ

 

古き世の物語めき

美しき追憶(おもひで)となる

琴の音(ね)はみそらにのぼる

まどかなる月の村雲

 

人の世はあやにくのもの

心憎き今宵の業(わざ)も

彈(ひ)く人は彈くとも思はず

きく人はきくとも知らず

 

ただ響くむねの創痍(いたで)に

反響(こだま)する淸搔(きよがき)のおと

幽(かす)かなれど漂ふわたり

けしきだち荒野と成りぬ

 

[やぶちゃん注:明治三九(一九〇六)年一月一日発行『文庫』初出。初出時は次の「泉のほとり」とともに総標題「北の海」で併載。初出形は以下。最終連が大きく異なるが、初出のそれは少しく意味が採りにくく、改作の方がよい。

   *

 

琴 の 音

 

梨の花月にこぼれて

千里(ちさと)まで霞む春の夜

岸に沿ひ流るる琴の

二つなき響をききぬ

 

古き世の物語めき

美しき追懷(おもひで)となる

琴の音(ね)は今(いま)さかりなり

誰(た)が家(いへ)のすさびなるらん

 

人の世はあやにくのもの

心憎き今宵の業(わざ)も

彈(ひ)く人は彈くとも思はず

きく人はきくとも思(おも)はず――

 

傷(やぶ)れたる胸に創痍(いたで)に

たゞ一人(ひとり)反響(こだま)する兒は

かすかなれど荒(あら)き響(ひゞき)を

よゝとしもつい啼(な)きゐたり

 

   *]

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