和漢三才圖會卷第三十八 獸類 兔(うさぎ) (ウサギ)
うさぎ 明眎 婏【子】
舍迦【梵書】
兔
★ 【和名 宇
佐木】
トウ
[やぶちゃん注:★の部分に上記の画像の篆文が入る。]
本綱兔處處有之爲食品之上味大如貍毛褐形如鼠而
尾短耳大而鋭上唇缺而無脾長鬚而前足短尻有九孔
趺居趫捷善走䑛雄豪而孕五月而吐子【或謂兔無雄而中秋望月中顧
兔以孕者不經之說】目不瞬而瞭然【故名明眎】兔者明月之精【白毛者入藥可】
兔以潦爲鼈鼈以旱爲兔熒惑星不明則雉生兔
㚟【音綽】 似兔而大青色首與兔同足與鹿同
肉【甘寒】補中益氣止渴去兒豌豆瘡【凡食兔可去尻八月至十月可食薑
芥橘及雞肉忌與兔同食】
兔血【鹹寒】 凉血活血催生易産解胎毒不患痘瘡
兔腦髓 又催生神藥【以上藥方見于本草附方】生塗皸凍瘡能治
兔皮毛【臘月收之】 治難産及胞衣不出餘血搶心脹刺欲死
者極騐【燒灰酒服方寸匕】兔毛敗筆【燒灰】治小便不通及産難
慈圓
拾玉何となく通ふ兔もあはれなり片岡山の庵の垣根に
△按兔善走如飛而登山則愈速下山則稍遲所以前足
短也毎雖熟睡不閉眼黒睛瞭然
傳燈錄云兔渡川則浮馬渡及半象徹底截流
宋史云王者德盛則赤兔見王者敬耆老則白兔見然今
毎白兎有之北國之兔白者多稱越後兔者形小而潔白
可愛毎食蔬穀而能馴尋常兔性狡而難馴
*
うさぎ 明眎〔(めいし)〕
婏〔(ふ)〕【子。】
舍迦〔(しやか)〕【梵書。】
兔
★ 【和名「宇佐木」。】
トウ
「本綱」、兔、處處に之れ有りて、食品の上味と爲す。大いさ、貍のごとく、毛、褐なり。形、鼠のごとくして、尾、短く、耳、大にして鋭なり。上唇、缺けて、脾[やぶちゃん注:漢方で言う架空の消化器系。現代医学の脾臓とは関係がない。]、無し。長き鬚ありて、前足、短し。尻に九つの孔有り。趺居〔(ふきよ)〕して[やぶちゃん注:両高気後脚の甲を股の上に置いて座り。東洋文庫訳割注を参考にした。]、趫(あし)[やぶちゃん注:実際にはこの漢字も「素早い」の意。]、捷(はや)く、善く走る。雄の豪(け)[やぶちゃん注:時珍の「毫」の誤字か。毛。]䑛めて孕む。五つ月[やぶちゃん注:五ヶ月。]にして子を吐く【或いは、「兔は雄無くして、中秋、望〔(もち)〕の月の中の兔を顧みて、以つて孕む」と謂ふは、不經〔(ふけい)〕[やぶちゃん注:常軌を逸すること。道理に外れること。]の說なり。】。目、瞬(またゝきせ)ずして瞭然たり。【故に「明眎」と名づく。】兔は明月の精〔なり〕【白毛の者、藥に入るるに可なり。】。兔、潦(にはたづみ)[やぶちゃん注:大雨の水。]を以つて鼈〔(すつぽん)〕と爲り、鼈は旱(ひでり)を以つて兔と爲る。熒惑星〔(けいわくせい)〕、明らかならざれば、則ち、雉〔(きじ)〕、兔を生ず。
㚟【音「綽〔(シユク)〕」。】 兔に似て、大なり。青色なる首〔は〕兔と同じく、足は鹿と同じ。
肉【甘、寒。】中[やぶちゃん注:脾胃。消化器系。]を補し、氣を益し、渴きを止め、兒の豌豆瘡(もがさ)[やぶちゃん注:疱瘡(天然痘)の古名。]を去る【凡そ、兔を食ふときは、尻を去るべし。八月より十月に至る〔まで〕食ひて可なり。薑芥〔(きようかい)〕・橘〔(たちばな)〕及び雞〔(にはとり)の〕肉、兔との同食を忌む。】。
兔〔の〕血【鹹、寒。】 血を凉〔しく〕し、血を活す。生〔氣〕を催(はや)め、産を易くし、胎毒を解す。痘瘡を患はず。
兔〔の〕腦髓 又、催生〔(さいせい)〕の神藥〔なり〕【以上の藥方、「本草」の「附方」に見ゆ。】。生〔(なま)〕にて皸(ひゞ)に塗り、凍瘡(しもやけ)を能く治す。
兔〔の〕皮毛【臘月[やぶちゃん注:陰暦十二月の異名。]、之れを收む。】 難産及び胞衣〔(えな)〕の出でざるを治す。餘血〔の〕心〔臟〕を搶〔(つ)〕く[やぶちゃん注:突く。撞く。]もの、脹刺して死せん欲(す)る者、極めて騐〔(げん)あり〕[やぶちゃん注:「驗」に同じい。]【灰に燒きて酒にて方寸の匕〔(さじ)ほど〕を服す。】。兔の毛〔にて製したる〕敗筆(ふるふで)[やぶちゃん注:兎の毛で作った筆が古くなったもの。]【燒き灰とす。】〔は〕小便〔の〕不通及び難産を治す。
慈圓
「拾玉」
何となく通ふ兔もあはれなり
片岡山の庵〔(いほ)〕の垣根に
△按ずるに、兔、善く走りて、飛ぶがごとく、山に登るときは、則ち、愈々、速し。山を下るときは、則ち、稍〔(やや)〕遲し。前足の短き所以〔(しよい)〕なり。毎〔(つね)〕に、熟睡すと雖も、眼を閉ぢずして、黒睛(くろまなこ)、瞭然たり。
「傳燈錄」に云はく、『兔、川を渡るときは、則ち、浮く。馬の渡るには、半ばに及ぶ。象〔の渡るときは〕、〔川〕底に徹(いた)り、流れを截〔(き)〕る』〔と〕。
「宋史」に云はく、『王者、德、盛なるときは、則ち、赤兔、見〔(あら)〕はる。王者、耆老〔(としより)〕を敬すれば、則ち、白兔、見はる』〔と〕。然〔れども〕、今、毎〔(つね)〕に白兎、之れ、有り。北國の兔に白き者、多し。「越後兔」と稱せる者、形、小さくして、潔白、愛すべし。毎に蔬〔(やさい)〕・穀を食ひて、能く馴るゝ。尋常の兔、性、狡〔(ずる)〕くして馴れ難し。
[やぶちゃん注:南極大陸や一部の離島を除く世界中の陸地に分布している(但し、オーストラリア大陸やマダガスカル島には元来は棲息していなかった)哺乳綱ウサギ目ウサギ科ウサギ亜科 Leporinae のウサギ類。以下、今回は主に小学館「日本大百科全書」より引く(但し、分類学上の和名の一部で他の資料を参考にした)。『ウサギ目 Lagomorpha は最近まで齧歯』『目Rodentiaのなかの亜目とされていたが、齧歯類が』四『本の切歯(門歯)』『があるのに対して、上あごの大きな』一『対の切歯の背方に小形に退化した』一『対の切歯が余分にあることを最大の特徴として区別され、現在では別の目とされている』。『一般にウサギとよばれている』ウサギ亜科 Leporinae には『ノウサギやカイウサギが含まれる。イエウサギの名でもよばれるカイウサギ rabbit はこの亜科に属するが、いわゆるノウサギ hare と属を異にし』(ノウサギ属 Lepus)、『本来ヨーロッパ中部および南部、アフリカ北部にかけて生息していたアナウサギrabbit(』アナウサギ属『ヨーロッパアナウサギOryctolagus cuniculus)を馴化』させ『たもので、世界各地で改良、飼育されている』。『ノウサギ類は、アナウサギ類に比べ』、『前肢がやや長いため、座ったときの姿勢が斜めになる。穴を掘らずに地上に巣をつくり、そこに子を産む。生まれたばかりの子は、毛が生えそろっていて、目も見え、すぐに歩き回ることができる。ノウサギ類は、オーストラリア、ニュージーランドなどを除き、世界中ほとんどの地域でごく普通にみられる。たとえば、北極圏やアラスカにはホッキョクノウサギ Lepus arcticus やアラスカノウサギ L. othus が、また、ヨーロッパに共通のノウサギとしてヨーロッパノウサギ L. europaeus が分布するなど、多種が広く生息する。日本には、北海道にエゾユキウサギ(エゾノウサギ)L. timidus ainu がいるほか、ノウサギ L. brachyurus の』四『亜種、すなわち、本州の日本海側と東北地方にトウホクノウサギ(エチゴウサギ)L. b. angustidens が、福島県の太平洋沿岸地方より南の本州、四国、九州地方にキュウシュウノウサギ L. b. brachyurus が、さらに隠岐』『と佐渡島に、それぞれオキノウサギ L. b. okiensis とサドノウサギ L. b. lyoni があり、合計』五『種が生息する。エゾユキウサギ』Lepus timidus ainu『と他の』四『種とは異なるノウサギ亜属に属し、エゾユキウサギは、ヨーロッパ、シベリア、モンゴル、中国東北部、樺太』『(サハリン)など亜寒帯から寒帯にかけて広くすんでいるユキウサギ』Lepus timidus『の亜種である。ユキウサギは本種、亜種とも冬になると』、『被毛が純白になる。一方、別の亜属に分類されるトウホクノウサギ』L. b. angustidens や『サドノウサギも冬毛は純白になるが、白くならないキュウシュウノウサギ』L. b. brachyurusや『オキノウサギ』L. b. okiensis『と同一グループとされる。世界でこれと同じ亜属に属するウサギは、中国東北部の東部とウスリー地方の狭い地域に分布するマンシュウノウサギ L. mandchuricus だけである』。『アナウサギ類は、ノウサギ類に比べ』、『前肢が短いため、座ったときの姿勢が低く、体が地面と平行になる。さらにアナウサギの名のとおり、地中に穴を掘って巣をつくり、群れをなして生活する。この地下街は、「ウサギの町」と称されるほど大規模な巣穴となる。妊娠した雌は分娩』『用の巣をここにつくり、生まれた子は、目が開いて』おらず、『赤裸であることもノウサギと異なっている』。『ローマ人たちは、壁に囲われた庭に、とらえたヨーロッパアナウサギを飼育していた。アナウサギはノウサギと異なり、このような人為的な環境下でも子を産み育てるから、数は増え、食肉用として飼育された。中世になると、帆船によって広く世界の各地に運ばれていった。これは、航海中の食糧を求める手段として、各航路の島々にヨーロッパアナウサギをカイウサギとして土着させるためであった。一般的環境、つまり気候や、餌』『となる植生が適し、さらに害敵(肉食獣など)がいない土地では急速にその数を増していった。オーストラリア大陸には元来』、『アナウサギ類は生息していなかったが』、一八五九年に、『ビクトリア州に導入されると、たちまちその数を増やし』一八九〇年頃には、『この地域におけるアナウサギの数は』二千『万頭と推定されるようになった。アナウサギの餌は草や若木の樹皮、畑の農作物であるから、被害は膨大なものになり、手に負えぬ』厄介者に『なった。害を防ぐため、さまざまな手段が実施されたが、効果はなかった』が、一九五〇年頃から、『ウサギの粘液腫』『ウイルス(全身皮下に腫瘤』『を形成し、死亡率が高く、伝染力も強い)を用いた駆除法が成功し、近年はその被害も少なくなってきて』は『いる』という。『日本には、奄美』『大島、徳之島特産の』アマミノクロウサギ属『アマミノクロウサギ Pentalagus furnessi がおり、特別天然記念物に指定されている。穴を掘って巣をつくるところはアナウサギ類に似るが、耳の長さは半分以下で、体全体もずんぐりしている。アマミノクロウサギは「生きている化石」とよばれる動物の一種で、近縁としてメキシコ市近くの山にいる』メキシコウサギ属『メキシコウサギ Romerolagus diazzi と』、『アフリカ南部にいるアカウサギ属のプロノウサギ Pronolagus crassicaudatus などとともにムカシウサギ亜科Palaeolaginaeに分類されている』。『カイウサギは、ヨーロッパアナウサギを馴養することに始まった。その後、大きさ、毛色、毛の長さ、毛の手触りなど、多様な変異を利用し、選抜淘汰』『を繰り返して、多くの品種を作出してきた。用途によって、毛用種、肉用種、毛皮用種、肉・毛皮兼用種、愛玩』『用種に分けられる』。『毛用種としてはアンゴラ』(Angora rabbit)『がよく知られている。トルコのアンゴラ地方が原産といわれ、イギリスやフランスで改良されたものが現在』、『飼養されている』。『白色毛がもっとも商品価値が高く、高級な織物や毛糸に加工される』。『肉用種としてはベルジアンノウサギ Belgian hare や、フレミッシュジャイアント Flemish giant などがある。前者はベルギー原産で体重』三・六『キログラム、ノウサギに似た毛色をしているのでこの名がある。後者は「フランダースの巨体種」の名のとおりフランス原産で、体重は』六・七『キログラムにもなる。毛色は鉄灰色、淡褐色などさまざまである』。『毛皮用種としてはチンチラ Chinchilla やレッキス Rex などがある。両者ともフランス原産』である。『兼用種は肉・毛皮両方を目的につくられ』、『兼用種にはニュージーランドホワイト New Zealand white や日本白色種がある』。『後者は日本でもっとも多く飼育されている白色種で』、『起源は明らかではないが、おそらく明治初期に輸入された外来種との交配によってつくられたアルビノと考えられている。そのため』、『以前は地方によって体形、大きさに差があり、大形をメリケン、中形をイタリアン、小形を南京(ナンキン)とよんでいたが、第二次世界大戦後』、『統一され、体重は生後』八ヶ月で四・八『キログラムを標準とする。肉と毛皮との兼用種として改良されてきたため、毛皮の質と大きさの点で優秀な品種である』。『愛玩用種としてはヒマラヤン Himalayan やダッチ Dutch が』おり、『前者はヒマラヤ地方原産といわれており、体重』一・三『キログラムの小形で、白色毛に、顔面、耳、四肢端が黒色の毛色である。後者はオランダ原産で、黒色、青色、チョコレート色などの被毛であり、胸の周りには帯をかけたような白色毛がある。体重は』二『キログラム前後である』。『餌』『は青草、乾草、野菜、穀類を与える。水は自由に飲めるようにする。とくに乾草給与時や、夏季、分娩後や哺乳中には水分が不足しやすい。ウサギは体に比べて』、『大きな胃と盲腸があって』、『大食である。成長期には』一『日に体重の』一~三『割の餌を食べる。ウサギの奇妙な習性に食糞』『がある。普通にみられる糞と、ねばねばした膜に包まれた糞を交互に排出するが、後者が排出されると、自分の口を肛門』『に近づけて吸い込み、かまずに飲み込む。この糞を食べさせないようにすると、しだいに貧血症状を呈し、やがて死亡する。これからもわかるように、排出物というよりも』、『餌といえるほどにタンパク質やビタミン』B12『が多く含まれていて、ウサギの健康維持にたいへん役だっている』。『ウサギをつかむときには、背中の真ん中より』、『やや前方の皮を大づかみにする。両耳を持ってつり下げるようなことをしてはいけない。粗暴に扱ったり、苦痛を与えると、普段鳴かないウサギも、キイキイと甲高い声を出す。おそらく恐怖のための悲鳴であろう』。『ウサギは生後』八ヶ月から『繁殖に用いられる。野生のウサギには繁殖季節があるが、カイウサギには認められない。また、自然排卵をしないで交尾刺激によって排卵が誘発される。この型の排卵はネコやイタチ類にみられる。妊娠期間は』三十一~三十二日で、一回の分娩で六、七頭の『子を産む。母親は分娩後、非常に神経質になり、興奮して子を食い殺すこともあるので安静にしておく。ウサギの乳汁は牛乳より栄養に富み』、『赤裸の子も早く育』ち、六~七『週齢で離乳する』。『ウサギは暑さに対して弱いばかりでなく、病気に対する抵抗力が一般的に弱い。とくにかかりやすい病気として、原虫によるコクシジウム症』(コクシジウムはアルベオラータ上門 Alveolataアピコンプレックス門 Apicomplexa コクシジウム綱 Coccidea に属する原生生物の一群で、人間・家畜・家禽に対して重大な疾患を引き起こすものが多く含まれるが、単に「コクシジウム」と言った場合は特にアイメリア科アイメリア属 Eimeria の原虫を指すことが多く、これが腸管内に寄生して下痢を起こさせるのがそれである)、『細菌による伝染性鼻炎、ぬれた草(とくにマメ科植物)の多食による鼓張症などがある』。『日本において家畜としてウサギが飼養されるようになったのは明治時代からで、中国やアメリカなどから輸入され、当初は愛玩用として飼われていた。防寒具としての毛皮、食用としての肉が軍需用物資として使用されるようになって急激に飼育数が増大した。これはアメリカへの毛皮輸出を含めた』、大正七(一九一八)年の『農林省の養兎(ようと)の奨励による。飼育数増大とともに各地で毛皮・肉兼用種への改良が行われ、現在日本白色種とよばれるものができた。日本におけるウサギの飼育頭数は、軍の盛衰と運命をともにし、一時は』六百『万頭も飼育されていたが、第二次世界大戦の終戦とともに激減した。なお、日本ではウサギ類を古来』「一羽」「二羽」『とも数えるが、これは獣肉食を忌み、鳥に擬したためである』。『毛皮は軽く保温力に富むので』、『オーバー、襟巻などに、アンゴラの毛はセーターや織物になる。肉もよく利用されるが、ほとんどは輸入されたものである。利用面で近年忘れられないことは、医学、生物学、農学などの研究に供試されることで、年間数十万頭が利用されている』。『ウサギの肉は食用としてもよく用いられる。野ウサギの肉はやや固く一種の臭みがあるが、家ウサギの肉は柔らかく、味も淡白である。ウサギ肉のタンパク質は、粘着性や保水性がよいので、プレスハムやソーセージのような肉加工品のつなぎとしてよく使われた。ウサギの肉は、鶏肉に似ているので、鶏肉に準じて各種料理に広く用いることができる。ただ、においにややくせがあるので、香辛料はいくらか強めに使うほうがよい。栄養的には、ウサギの肉はタンパク質が』二十%『と多く、反対に脂質は』六%『程度で他の肉より少ない傾向がある』。「古事記」の「因幡の白兎」や、「鳥獣戯画」に『描かれているおどけたウサギなど、古来』、『ウサギは人間と密接な関係をもつ小動物と受け取られてきた。「かちかち山」や「兎と亀』『」などの動物説話が広く知られている一方、一見』、『おとなしそうなウサギが』、『逆に相手をだます主人公となるような類話も少なくない。その舞台を語るのか、赤兎山(あかうさぎやま)、兎平(うさぎだいら)、兎跳(うさぎっぱね)など、ウサギにちなむ地名が全国各地に分布する。また』、『時期や天候の予知にも関係し、山ひだの雪形が三匹ウサギになると、苗代に籾種(もみだね)を播』『くとする所や、時化(しけ)の前兆となる白波をウサギ波とよんでいる所が日本海沿岸に広くみられる。ウサギの害に悩む山村の人々は、シバツツミとよばれる杉葉を田畑の周囲に巡らしたり、ガッタリ(水受けと杵(きね)とが相互に上がったり落ちたりする仕掛けの米搗』『き臼』『)の発する音をウサギ除』『けとした。雪国の猟師たちは、新雪上に描かれたテンカクシ、ミチキリなどと特称される四肢の跡を目安に狩りをしたが、なかでも、棒切れあるいはワラダ、シブタなどといわれる猟具を』、『ウサギの潜む穴の上へ投げ飛ばし、空を切る音と影の威嚇』『効果によって生け捕りにする猟法は、注目に値する。また、ウサギは月夜の晩に逃げるとか、その肉を妊婦が食べると兎唇』『(口唇裂)の子が生まれる、などの俗信も少なくない』。『ヨーロッパ、とりわけフランスでは、家畜ウサギは食用としてニワトリと並び賞味されているが、一方の野生のノウサギは、世界各地で民話の登場人物として親しまれてきた。そのイメージの多くは、すばしこくて少々悪賢く、いたずら好きだが、ときには人にだまされるという共通性をもっている。アフリカ(とくにサバンナの草原地帯)の民話では、ウサギはトリック』・『スターとして活躍し、ハイエナなどがウサギにかつがれる。ナイジェリアのジュクン人の民話では、ウサギは王の召使いとして人々との仲介者となったり、未知の作物や鍛冶』『の技術を人々にもたらす文化英雄の役割を演じるほか、詐術によって世の中を混乱させたり、王の人間としての正体を暴いてみせたりする。またいたずら者のウサギは「相棒ラビット」などのアフリカ系アメリカ人の民話にも生き続けている』とある。
「鼈〔(すつぽん)〕」爬虫綱カメ目潜頸亜目スッポン上科スッポン科スッポン亜科キョクトウスッポン属ニホンスッポン Pelodiscus sinensis。同種は中国・日本・台湾・朝鮮半島・ロシア南東部・東南アジアに広く棲息する。本邦産種を亜種Pelodiscus sinensis japonicusとする説もある。
「熒惑星〔(けいわくせい)〕」火星の非常に古い異名。
「雉〔(きじ)〕」鳥綱キジ目キジ科キジ属キジ Phasianus versicolor。この辺り、ウサギがスッポンになり、スッポンがウサギになり、星の影響でキジがウサギを産んじゃったりと、まんず、凄いね!
「㚟」不詳。幻獣染みている。
「薑芥〔(きようかい)〕」中国の本草書「神農本草経」(「鼠實」)や東洋文庫訳の割注(「めづみ草」)によれば、シソ目シソ科イヌハッカ属ケイガイ Schizonepeta tenuifolia のこととなる。ウィキの「ケイガイ」によれば、『薬用植物』とし、『中国原産の草本で花期は初夏から夏』。『花穂は発汗、解熱、鎮痛、止血作用などがあり、日本薬局方に生薬「荊芥(ケイガイ)」として収録されている。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などの漢方方剤に配合される。「アリタソウ」という別名がある。ただし、本種はシソ科であり、アカザ科のアリタソウとは全く別の物である』とある。
「橘〔(たちばな)〕」ここは「本草綱目」の記載であるから、バラ亜綱ムクロジ目ミカン科ミカン亜科ミカン属 Citrus のミカン類としか言えない。これを種としての「タチバナ」、ミカン属タチバナ(橘)Citrus tachibana ととってはいけない。同種は本邦に古くから自生している本邦の柑橘類固有種であるからである。近縁種にコウライタチバナ(高麗橘)Citrus nipponokoreana があるものの、これは現在、山口県萩市と韓国の済州島にのみしか自生してない(萩市の自生群は絶滅危惧IA類に指定されて国天然記念物)。
「生〔氣〕を催(はや)め」ここは訓点がおかしいので、独自に読んだ。「催生〔(さいせい)〕」と同じく、健全な生気を促進させるの謂いではあろう。
「脹刺して」意味不明。腹部が膨満して、刺すような痛みがあるということか?
「方寸の匕(さじ)」東洋文庫訳では割注で『茶さじ一杯』とする。
「兔の毛〔にて製したる〕敗筆(ふるふで)【燒き灰とす。】〔は〕小便〔の〕不通及び難産を治す」何らかの類感呪術と思われるが、最早、その謂れが判らぬ。
「慈圓」「拾玉」「何となく通ふ兔もあはれなり片岡山の庵〔(いほ)〕の垣根に」本歌は「夫木和歌抄」の「巻二十七 雑九」にも所収されていたので、「日文研」の「和歌データベース」で校合出来た。
「傳燈錄」「景德傳燈錄」。北宋の道原によって編纂された過去七仏から禅僧及びその他の僧千七百人の伝記を収録している(但し、実際に伝のあるものは九百六十五人だけ)。全三十巻。景徳元(一〇〇四)年に道原が朝廷に上呈し、楊億等の校正を経て、一〇一一年に続蔵に入蔵を許されて天下に流布するようになったため、当代の年号をとって、かく呼ばれるようになった。これ以降、中国の禅宗では、同様の伝記類の刊行が相次ぎ、それがやがて「公案」へと発展したとされる。参照したウィキの「景徳傳燈録」によれば、『現在もなお、禅宗を研究する上で代表的な資料であり、必ず学ぶべきものとされるが、内容は必ずしも史実とは限らない部分もある』とある。う~ん、確かに、この兎と馬と象の謂いは、これ、博物学的というより、まさに公案っぽいがね!
「宋史」「宋書」が正しい。中国二十四史の一つで、南朝宋の正史。全百巻。南朝梁の沈約(しんやく)が撰し、四八八年に完成した。
「越後兔」冒頭解説に出た、本邦産ノウサギの亜種の一つであるトウホクノウサギ Lepus brachyurus angustidens のこと。現在も「エチゴノウサギ」の異名が生きている。本州中部以北に棲息し、頭胴長は五十センチメートル内外。]