雁、雁 伊良子清白
雁、雁
雁(がん)、雁(がん)おまへは
どこへ行く
北へ行くなら
加賀のくに
防風の萠える
砂山に
かはりはないか
いうておくれ
[やぶちゃん注:初出は昭和三(一九二八)年七月発行の『詩神』であるが、初出標題は「雁」一字である。
「防風」はセリ目セリ科ハマボウフウ属ハマボウフウ Glehnia littoralis のこと。海岸の砂地に植生し、浜風に耐えるために根茎は太く長い。葉は羽状の複葉で厚く、放射状に広がる。夏、茎の頂きに白色の小花を密集させる。香りのよい若葉は刺身の褄、根は本邦では民間薬として解熱・鎮痛に用いる。「伊勢防風」とも呼ぶ。中医の正統な漢方生薬である「ボウフウ」は同じセリ科 Apiaceae ではあるが、全くの別属であるボウフウ属ボウフウ Saposhnikovia divaricata の根及び根茎由来(発汗・解熱・鎮痛・鎮痙作用を有する)であって全くの別物である。
初出は四部構成。以下に示す。
*
雁
一
雁(がん)、おまへは
どこへ行く
二
北(きたへ行(ゆ)くなら
加賀(かが)の國
三
防風(ぼうふ)の萠(も)える
砂山に
四
かはりいないと
いふとくれ。
*]