春 伊良子清白 (ハイネ訳詩)
春
浪は輝き流れ去る
春の景色の美しさ
牧の少女の岸近く
優なる花環編みて居り
めぐむ泉はかをりつつ
春のけしきの美しさ
深き胸よりもれいでて
「誰れに贈らんわが花環」
若武者岸をうたせ行く
花はづかしき其風情(ふぜい)
心いたみぬ少女子は
彼方に靡く羽印(はねじるし)
泣きぬ滑りて行く水に
優なる花環流しやる
よぶは鶯戀の歌
春のけしきの美しさ
(以上十五篇ハイネ)
[やぶちゃん注:最後の「(以上十五篇ハイネ)」は昭和四(一九二九)年新潮社刊「現代詩人全集 第四巻 伊良子清白集」の本篇最後に記されてあるもので、例のダイヤ型の大小を用いた変わった十字架状の装飾記号が三つ縦に打たれ後の、「さうび百合ばな」以下、以上に電子化した詩篇群を指している。しかし、この後書きは正しくなく、「さうび百合ばな」の前の三篇「山彥」「金」「牧童」もハイネの訳詩である。しかも、奇体な装飾記号で分離されている以上、ハイネを知らない殆んどの読者は「山彥」「金」「牧童」を、総て、妙に日本離れしたハイカラなロケーションや表現だなあとは思えども、ハイネの詩とは思わない。これの添書きは正直、私には甚だ不審にして不快な印象を与えることを述べておく。
本篇は明治三六(一九〇三)年十一月発行の『文庫』初出(署名「清白」)であるが、総標題「夕づゝ(四)(Heine より)」の下に、「綠の牧場」・「車に乘りて」・「われの言葉を」・「心を痛み」及び本「春」の五篇からなる。原詩は不詳。初出には私は有意な異同を認めない。]
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