金 伊良子清白 (ハイネ訳詩)
金
めぐしき金(こがね)わが金
汝(なれ)は何處(いづこ)に旅立ちし
小川の水にうかぶなる
金(こがね)の色のうろくづの
中にやあそぶわが金
可愛(かな)し綠の牧の上
金のいろの野の花の
露にや光るわが金
雲を掠めて線(すぢ)をひく
金の色の村鳥の
羽にやひそむわが金
夜な夜な空にゑみ開く
金の色の星屑の
中にやかかるわが金
あはれ汝(いまし)よわが金
小川の浪に鰭(ひれ)振(ふ)らず
綠の故に輝かず
靑き雲間に漂はず
あかき御空にほほゑまず
悲しや一人金貸の
鋭き爪に攫(つか)まれにけり
[やぶちゃん注:明治三六(一九〇六)年十月発行の『文庫』初出であるが、そこでは総標題「夕づゝ(三)(Heine より)」の下に前の「山彥」及び「金」、次の「牧童」の三篇から成る(署名「清白」)。されば、本篇はハイネ(Christian Johann Heinrich Heine 一七九七年~一八五六年)の訳詩。本篇は英訳をこちらで捜し得たが、私はドイツ語が出来ないので、そこから原詩を見出すことは出来なかった。
初出は表記違い以外では、第四連の最終行が「中に光らすわが金」となっているのが、大きな異同である。]
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