よきねがひ 伊良子清白
よきねがひ
繁みみどりに
森緘(つぐ)みて
懸想(けさう)の二人(ふたり)
わかれを
われは見る
女(をみな)は男を
をとこはをみなを
ふりかへりつつ
浮霧二人を
隔てはつるまで
しげみ色づき
もり音立てて
うきぎりひらき
かつきえ
われは願ふ
旅行く君に
くはしめに
時し來ぬれば
よろこばしさの
またの逢瀨(あふせ)を
[やぶちゃん注:初出は明治三九(一九〇六)年四月発行の『文庫』であるが、総標題「きらゝ雲」として、先の「休ひの谷」を筆頭に「かへし」・「ちごのをはり」(後に先の「稚児の終焉」に改題)・「運命」・「鹿」・本「よきねがひ」・「秋」・「君の園生に」・「涅槃」・「さいはひ」(表記はママ)の十篇から成っている(署名「清白」)。
「くはしめ」「美(麗)(くは)し女(め)」で上代以来の美女を示す古語。
初出は以下。
*
よきねがひ
繁(しげ)みあらはに
森緘(つぐ)みて
懸想(けさう)の二人(ふたり)
わかれを
われは見る
女(をんな)はをとこを
男(をとこ)はをんなを
ふりかへりつつ
浮霧二人を
隔てはつるまで
しげみ色づき
もり音立てて
うきぎりひらき
かつきえ
われ願(ねが)ふ
旅行く君に
花(はな)なる人(ひと)に
時し來ぬれば
よろこばしさの
またの逢瀨(あふせ)を
*]