綠の牧場 伊良子清白 (ハイネ訳詩/附・生田春月訳)
綠の牧場
綠のまきば森のうへ
夏の夕べぞたそがるる
黃金(こがね)の月は大空(おほぞら)に
薰り放ちててらすなり
なくや蟋蟀(こほろぎ)水近く
水のおもてぞゆらぐなる
水打つ音とその呼吸と
靜けき夜を破りつつ
小川の岸にただ一人
はしき少女ぞ浴みする
腕(ただむき)頸(うなじ)白々と
月の光に輝きて
[やぶちゃん注:明治三六(一九〇三)年十一月発行の『文庫』初出(署名「清白」)であるが、総標題「夕づゝ(四)(Heine より)」の下に、本「綠の牧場」・「車に乘りて」・「われの言葉を」・「心を痛み」・「春」の五篇からなる。本篇はPDサイト「PD図書室」のこちらの昭和一〇(一九三五)年二十四版新潮文庫刊生田春月(明治二五(一八九二)年~昭和五(一九三〇)年)譯「ハイネ詩集」の訳によるなら、一八二六年初版一八三〇年再版の詩集“Reisebilder”(「帰郷」)の第九十七歌であるが、ドイツ語が解らない私の力では原詩は捜し得なかった。
生田春月の訳を同上ページの「帰郷」パートから示す(但し、漢字の一部を正字化した。)。
*
九十七
夏の夕は落ちて來た
森と綠の牧場の上に
靑い空からは黃金の月が
匂はしい光を投げてゐる
河のほとりには蟋蟀(こほろぎ)が鳴き
水はさらさら音立てる
旅人はそのせゝらぎに聞き惚れてゐる
靜かななかに一つの呼吸(いき)の音
その河邊にはただひとり
美しい妖精(エルフ)が水に浸つてゐる
白いかはいゝ腕(かひな)と頸(くび)を
月の光にてらさせて
*]
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