フォト

カテゴリー

The Picture of Dorian Gray

  • Sans Souci
    畢竟惨めなる自身の肖像

Alice's Adventures in Wonderland

  • ふぅむ♡
    僕の三女アリスのアルバム

忘れ得ぬ人々:写真版

  • 縄文の母子像 後影
    ブログ・カテゴリの「忘れ得ぬ人々」の写真版

Exlibris Puer Eternus

  • 僕の愛する「にゃん」
    僕が立ち止まって振り向いた君のArt

SCULPTING IN TIME

  • 熊野波速玉大社牛王符
    写真帖とコレクションから

Pierre Bonnard Histoires Naturelles

  • 樹々の一家   Une famille d'arbres
    Jules Renard “Histoires Naturelles”の Pierre Bonnard に拠る全挿絵 岸田国士訳本文は以下 http://yab.o.oo7.jp/haku.html

僕の視線の中のCaspar David Friedrich

  • 海辺の月の出(部分)
    1996年ドイツにて撮影

シリエトク日記写真版

  • 地の涯の岬
    2010年8月1日~5日の知床旅情(2010年8月8日~16日のブログ「シリエトク日記」他全18篇を参照されたい)

氷國絶佳瀧篇

  • Gullfoss
    2008年8月9日~18日のアイスランド瀧紀行(2008年8月19日~21日のブログ「氷國絶佳」全11篇を参照されたい)

Air de Tasmania

  • タスマニアの幸せなコバヤシチヨジ
    2007年12月23~30日 タスマニアにて (2008年1月1日及び2日のブログ「タスマニア紀行」全8篇を参照されたい)

僕の見た三丁目の夕日

  • blog-2007-7-29
    遠き日の僕の絵日記から

サイト増設コンテンツ及びブログ掲載の特異点テクスト等一覧(2008年1月以降)

無料ブログはココログ

« 太平百物語卷五 四十三 能登の國化者やしきの事 | トップページ | NECESSITAS_VIS_LIBERTAS! 薄肉彫 ツルゲエネフ(生田春月訳) »

2019/05/25

和漢三才図会巻第三十九 鼠類 貂(てん) (テン)

Ten

 

 

てん   栗鼠 松狗

     【和名天牟】

【鼦同】

     黑貂【和名布

        流木】

 

本綱貂鼠屬大而黃黒色如獺而尾粗也其毛深寸許紫

黑色蔚而不耀用皮爲裘帽風領寒月服之得風更暖著

水不濡得雪則消拂靣如熖拭眯則出亦奇物也惟近火

則毛易脫毛帶黃色者爲黃貂白色者爲銀貂此鼠好食

栗及松皮故名栗鼠【高麗女直韃靼等諸胡國皆有】

△按貂在山中狀類鼬而身長大如獺毛色亦似鼬而胸

 腹褐色頰短而醜其皮爲鋒槍之鞘袋時珍以爲栗鼠

 蓋本朝謂栗鼠與貂其類不遠而異也【栗鼠乃鼠屬貂鼬屬】

 云老鼬變成貂然乎否能治眯【塵埃入于目中曰眯】

 

 

てん   栗鼠(りす) 松狗〔(しやうく)〕

     【和名「天牟〔(てむ/てん)〕」。】

【「鼦」同じ。】

     黑貂【和名「布流木〔(ふるき)〕」。】

 

「本綱」、貂は鼠の屬にして、大にして黃黒色、獺〔(かはうそ)〕のごとくにして、尾、粗なり。其の毛、深さ寸許り、紫黑色、蔚(しげ)りて[やぶちゃん注:「繁茂して」。緻密みみっちりと生えていることを言っている。]、耀(かゞや)かず[やぶちゃん注:光沢はない。]。皮を用ひて裘〔(かはごろも)〕・帽・風領〔(かざえり)〕に爲〔(つく)〕る。寒月、之れを服すに、風を得て〔も〕更に暖きなり。水に著〔(つけ)〕て〔も〕濡れず、雪を得て〔も〕、則ち、消ゆる。靣[やぶちゃん注:毛皮の表面。]を拂ひて〔は〕[やぶちゃん注:摩擦してみると。]熖〔(ほのほ)〕のごとく〔熱くなり〕、眯〔(び)〕[やぶちゃん注:目の中に入った塵(ごみ)。]を拭ひて〔は〕、則ち、〔それを〕出だす。亦、奇物なり。惟だ、火も近づくときは、則ち、毛、脫(ぬ)け易し。毛、黃色を帶ぶる者、「黃貂〔(きてん)〕」と爲し、白色なる者、「銀貂」と爲す。此の鼠、好んで栗及び松皮を食ふ。故に「栗鼠〔(りす)〕」と名づく【高麗・女直(ぢよちよく)・韃靼〔(だつたん)〕等の諸胡國、皆、有り。】。

△按ずるに、貂は山中に在り。狀、鼬〔(いたち)〕の類にして、身、長く、大いさ、獺〔(かはうそ)〕のごとし。毛色も亦、鼬に似て、胸・腹、褐(きぐろ)色。頰、短く、醜(みにく)し。其の皮、鋒-槍〔(やり)〕の鞘袋〔(さやぶくろ)〕と爲す。時珍、〔本「貂」を〕以つて、「栗鼠(りす)」と爲す。〔而れども、〕蓋し、本朝に謂ふ「栗鼠(りす)」と「貂(てん)」と、其の類、遠からずして、而〔れども〕異なり【「栗鼠」は、乃〔(すなは)ち〕、鼠の屬。「貂」は鼬の屬なり。】。〔或いは〕云ふ、「老〔いたる〕鼬、變じて貂と成る」と。然るや否や。能く眯〔(び)〕を治す【塵埃、目の中に入るを、「眯」と曰ふ。】。

[やぶちゃん注:食肉(ネコ)目イヌ亜目イタチ科イタチ亜科テン属 Martes のテン類。テン属には、北アメリカに、アメリカテンMartes americana・フィッシャー(fisher)Martes pennantiの二種があり、ヨーロッパからアジアにかけて、クロテンMartes zibellina・マツテンMartes martes・キエリテンMartes flavigula・コウライテンMartes melampus coreensis(朝鮮半島南部。但し、捕獲例が二例あるのみ)など七種が棲息する。本邦には孰れも固有亜種の、ホンドテン Martes melampus melampus(本州・四国・九州自然分布。北海道・佐渡島へ移入。沖縄県には棲息しない)と、対馬にのみ棲息するツシマテン Martes melampus tsuensis が棲息する。小学館「日本大百科全書」によれば、『どの種も毛皮が美しいために乱獲され、一時は非常に減少したが、現在では世界各国とも保護策をとっている。また、クロテンは養殖もされている。体形はいずれも似ていて、イタチ』(食肉(ネコ)目イヌ亜目イタチ科イタチ亜科イタチ属 Mustela本巻掉尾が「鼬」である)『より大きく、四肢が長い。毛色は黄ないし黒褐色で、のどの部分が淡い。冬毛と夏毛で毛色が異なるものも多い。いずれも森林にすみ、昆虫や小動物のほか、果実も好む』。本邦産は『体長は雄で』四十五~五十『センチメートル、尾長』十七~二十三『センチメートル、雌はやや小さい。夏毛は全体に褐色で、耳からのどにかけて黄色、顔と四肢は黒い。冬毛は変異が大きく、キテン』(種名ではなく、毛色の有意な相違による呼称。ホンドテンは体色(冬毛)に東北地方などの主に寒冷地に棲息する全身が黄色の個体群と、四国・九州などの主に温暖地に棲息する黄褐色の個体群との、二つの色相がある。前者のように全体に美しい黄色を呈して頭と顔が白いものを「キテン」(黄貂)、地色は夏毛と殆んど変わらずに頭・顔・咽頭部が淡い褐色となるものを「スステン」(恐らくは「煤貂」)と呼ぶ。時珍の言う『白色なる者、「銀貂」と爲す』と言うのも、中国産種の異種ではなく、同一種の中の、そうした毛色の型位相を指している可能性が高い)『ように全体に美しい黄色で、頭と顔が白いものから、スステンのように地色は夏毛とほとんど変わらず、頭、顔、のどが淡い褐色となるもの』、『および』、『その中間型もあり、色相によって区別される別型と考えられている。対馬』『産の亜種ツシマテン』『の冬毛はスステンに似るが、頭、顔、のどは白い。テンの各型および亜種とも、四肢、とくにその先端はつねに黒いが、クロテンと違い』、『尾の先端は黒くない』。『テンは山地から平野部の森林にすみ、高山には少ないが、人里近くにもみられる。日中は樹洞などに潜み、夜間に活動する。雑食性で、昆虫、カエル、トカゲ、小鳥、ネズミなどの動物質のほか、果実も食べ、とくに秋にはノブドウ、アケビ、ムベなどをよくとる。木登りは非常に巧みである。繁殖期以外は単独で生活する。交尾は春から夏にみられ幅があるが、出産は』四~五『に限られ』一産で二~四子を産む。『夏にみられる交尾で』は『妊娠するかどうか』が『わかっていないが、胎児が発育を停止する妊娠遅延があるとも考えられ』ているという。『テンは、毛皮を利用するためと』、『夜行性』であることから、本邦では、『銃器によらず、とらばさみや箱わななどのわなで捕獲する。日本での捕獲数は年間』一『万頭、東北地方と群馬、長野、新潟、島根などの各県が多い。北海道と愛媛県は現在捕獲禁止としている』。『利用はおもにコート、襟巻などで、寒い地域のキテンが価値が高く、なかでも背の下毛が白い根白(ねじろ)が最高級とされ』、『ついで』、『下毛の赤褐色の根赤(ねあか)、黒褐色の根青(ねあお)』の順『となり、暖地のスステンは黒く染色して、より価値の高いクロテンの代用にされる程度である。また、テンは養鶏場や養魚場へ侵入して害を与えることもあり、これらの業者からは嫌われている』とある。なお、漢字「貂」の音は「テウ(チョウ)」で「てん」は訓である。現代中国語では「diāo」(ディアォ)であるが、中国では地方によりまた、朝鮮語音では「トン」と発音することから、本邦ではそれが訛って「てん」となったものと言う。

「貂は鼠の屬」誤り。テンは齧歯(ネズミ)目 Rodentia にあらずして、肉食(ネコ)目 Carnivora である。最後の珍しい良安の時珍への正当な批判も、言わずもがなの「其の類、遠からずして、而〔れども〕異なり」とやらかした部分で、ややズッコケている。但し、割注のと『「栗鼠」は、乃〔(すなは)ち〕、鼠の屬。「貂」は鼬の屬なり』は「栗鼠」は齧歯目リス亜目リス科 Sciuridae で、「鼬」は既に見た通り、食肉(ネコ)目であるから、正しい。

「獺〔(かはうそ)〕」食肉目イタチ科カワウソ属ユーラシアカワウソ Lutra lutra、本邦の日本人が滅ぼしたそれは、ユーラシアカワウソ亜種ニホンカワウソ Lutra lutra nippon「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 獺(かはうそ)(カワウソ)」を参照。

「風領〔(かざえり)〕」着衣の大きくとった防寒用の襟。

「高麗」(九一八年~一三九二年)は首都は開京(現在の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)南部にある開城(ケソン)市)。十世紀の最大版図時には、朝鮮半島の大部分に加え、現在の中国の元山市や鴨緑江まで及んだ。この名称は朝鮮半島を表す英語「Korea」の語源である。

「女直(ぢよちよく)」「女眞」(じょしん)に同じで、本来は民族名である「ジュルチン」「ジュシェン」での読みも一般的である。満洲の松花江一帯から外興安嶺(スタノヴォイ山脈)以南の外満州にかけて居住していたツングース系民族が居住し、実効支配していた中国の北外。

「韃靼〔(だつたん)〕」「タタール」に同じ。本来は、モンゴリア東部に居住したモンゴル系遊牧部族タタールを指した中国側の呼称。「タタール部」は十一世紀から十二世紀にかけて、モンゴリアでは最も有力な集団の一つであり、また、モンゴル族の中でも多数を占めていたという。このため「宋」では「タタール部」を「韃靼」と呼んだが,それは拡大してモンゴリア全体を指す呼称としても用いられた。十二世紀末から十三世紀初め、モンゴル部にチンギス・ハーンが出現し、モンゴル帝国が出現するに及んで、「タタール部」の力は衰えた。ここはやはり中国北部外の旧地を指す。

「胡國」古代より中国北方の異民族(夷狄(いてき))の国を呼んだ「野蛮な国」の意を含む蔑称。]

« 太平百物語卷五 四十三 能登の國化者やしきの事 | トップページ | NECESSITAS_VIS_LIBERTAS! 薄肉彫 ツルゲエネフ(生田春月訳) »