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2019/05/13

太平百物語卷三 二十九 狩人熊を殺して發心せし事

    ○二十九 狩人(かりうど)熊を殺して發心せし事

 いよの國に、和田八といふ狩人あり。鐵砲、殊に能(よく)うちけるゆへ[やぶちゃん注:ママ。]、外の狩人よりは、おほく、獸(けだもの)を取りける。

 或日、いつものごとく、山に分入(わけいり)、狩をしけるが、大きなる巖(いはほ)のうちに、熊の伏居(ふしゐ)たるを見付出(いだ)し、

『能(よき)仕合(しあはせ)かな。』

と、おもひ、頓(やが)て、鐵砲に火をうつさんとせし時、かの熊、和田八を、

「きつ。」

と見て、其儘、兩手をあはせ、又、わが腹をおしへ[やぶちゃん注:ママ。「教(をし)へ」であろう。熊が腹を手で指したのであろう。]、身をもだへ、いたく苦しむ体(てい)なりしが、和田八、元來、無骨の者なれば、なじかは用捨(やうしや[やぶちゃん注:ママ。この字の場合は歴史的仮名遣では「ようしや」でよい。」])すべき、終に、うち殺して肩に引かけ、歸りけるが、女房、和田八をみるより、其儘、かき付、むさぶり付く程に、

『こは狂氣せしにや。』

と思ふ所に、女房、俄に口ばしり、

「扨々、おことは情をしらぬ者かな。われ、子を孕(はらみ)て、既に產落(うみおと)さんとせし所を、御身、見付て、うちころさんとす。我、是を知るといへども、臨產(りんざん)、身重くして、迯(にぐる)事、叶はず。此故に、無事を敎へて、命を乞(こへ)ども、敢て免さず、是非なく、殺されたり。われ、此恨み、何ぞ盡(つき)んや。」

と、いひて、三返斗[やぶちゃん注:「さんべんばかり」。]、かけ廻(めぐ)り、其儘、かしこに、倒れふす。

 和田八、此体(てい)をみて、

『扨は。熊が執心、女房につきて、苦しめけるよ。』

と、おもひ、まづ、熊の腹を裂(さき)てみるに、果(はた)して、子熊一疋、胎中(たいちう)にありしが、死せずして飛出たり[やぶちゃん注:「とびいでたり」。]。

 和田八、流石(さすが)に、あはれを催し、此子熊を、さまざまいたはりしが、乳(ち)なければ、ぜひなく、三日目に、死(しゝ)たり。

 然(しか)れども、和田八が、少しの慈愛に、感じけるにや、熊の執心、はなれて、女房、本心になりければ、和田八、大きによろこび、有し[やぶちゃん注:「ありし」。]次第をいひきかせ、始て佛心にもとづき、夫婦諸共(もろとも)、髻(もとゞり)を切(きり)、熊親子をはじめ、是まで打ちころせし獸(けだもの)の菩提のため、諸國行脚して、道心堅固に終りけるとぞ。

 誠に、此熊こそ、夫婦の者が「善知識」なりけると、有がたかりし因緣なり。

[やぶちゃん注:「いよの國」「伊豫國」で現在の愛媛県。

「熊」四国には食肉目クマ科クマ亜科クマ属ツキノワグマ亜種ニホンツキノワグマ Ursus thibetanus japonicus が棲息するが、絶滅の危機に見舞われており、現在、保全が行われている(九州では既に絶滅してしまった)。

「無事を敎へて」この「無事」は「臨產(りんざん)、身重くして、迯(にぐる)事、叶はず」ということ、即ち、「なすべきことがないこと」、抵抗したり、逃げたりすることが出来ないということ、を指していよう。

「善知識」仏教の正しい道理を教え、利益を与えて導いてくれる人を指す。サンスクリット語の「善き友」「真の友人」の漢訳。]

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