秋 伊良子清白
秋
行けかしさらば春のたのしみ
綠の御室黃金の太陽(ひかげ)
園のとよみのまだき底ひに
うれしき絃の響をぞきく
御魂(みたま)よきみはくりかへしつつ
今もおもふや春の戀歌
しほたれ樹立(こだち)見よやめぐり
なつかしき夢果(み)となりにき
[やぶちゃん注:初出は明治三九(一九〇六)年四月発行の『文庫』であるが、総標題「きらゝ雲」として、先の「休ひの谷」を筆頭に「かへし」・「ちごのをはり」(後に先の「稚児の終焉」に改題)・「運命」・「鹿」・「よきねがひ」・本「秋」・「君の園生に」・「涅槃」・「さいはひ」(表記はママ)の十篇から成っている(署名「清白」)。
「果(み)」実(み)の意であろう。しかし初出とは印象が変わってくる。初出は以下。
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秋
行けかしさらば春のたのしみ
綠の御室黃金の太陽(ひかげ)
園(その)のどよみのまだき底ひに
うれしき絃の響(ひゞき)をぞ聽(き)く
御魂(みたま)よきみはくりかへしつつ
今もおもふや春の戀歌
しをたれ樹立(こだち)見よやめぐり
なつかしき夢(ゆめ)果(はて)と成(な)りにき
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