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2019/05/10

藁屋 伊良子暉造(伊良子清白)

 

藁 屋

 

村のはづれのやま下に、

椎の木小陰をよすがにて、

あはれにすめる宿ありき。

屋根の古藁苔むして、

見るだにいとゞ荒たりき。

 

門にはきよき水ながれ、

せ戶には狹き畠ありき。

おみなはいでゝ衣あらひ、

おきなはいつも耕して、

その日その日を送りにき。

 

ほかにひとりの少女子の、

いともやさしき孫ありて、

町にいでゝは花を賣り、

村にかへれば花を採り、

かくて二人をなぐさめき。

 

村の人らの折々に、

つかれ休めに立よれば、

三人はいともうれしげに、

茶などくみつゝくさぐさの、

話にときを移しにき。

 

話にきけば少女子の、

父はいくさに討死し、

はゝは一昨年世をさりて、

わすれ形見に殘りしは、

花うる少女一人のみ。

 

少女はいとゞ幼くて、

まだ十一の春なれば、

二人はことにうつぐしみ、

むかふの町を朝ごとに、

花をうらせてすぐすとぞ。

 

かゝる話をきゝしより、

幼心にいとほしく、

父に乞ひては米送り、

はゝにこひては衣をやり、

三人をいたくめぐみにき。

 

はづれながらも近ければ、

あるは少女と花をつみ、

あるは媼のはなしきゝ、

朝な夕なにおとづれて、

あそばぬ日とてあらざりき。

 

さるを都にいと永く、

くらして今年きてみれば、

ふりし藁屋は人もなく、

椎の木高くたてるのみ。

門の小川は水かれて、

背戶の畠には草おひぬ。

あはれ三人はいかなれば、

この山陰をよそにして、

遠くいづちに移りけむ。

 

[やぶちゃん注:これより、明治二八(一八九五)年パートに入る。この年の十月四日で伊良子清白満十八歳となる。明治二十八年一月三日発行の『少年園』掲載。署名は本名の伊良子暉造。彼らしいしみじみとした物語風の一篇である。]

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