和漢三才図会巻第三十九 鼠類 䶉(たけねずみ)・鼯鼠(むささび/のぶすま) (タケネズミ・ムササビ・モモンガ)
たけねすみ 竹㹠
䶉 【音留】
本綱䶉出南方居土穴中食竹根之鼠也大如兎人多食
之味如鴨肉凡煮羊以䶉煮鼈以蚊物性相感也
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むささひ
鼯鼠
のふすま
[やぶちゃん注:以下は原典では上記三行の下部に配されてある。]
△按鼯鼠毛色形畧似鼠而有肉翼
也【詳于原禽類伏翼之次】
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たけねずみ 竹㹠〔(ちくとん)〕
䶉 【音「留」。】
「本綱」、䶉は南方に出づ。土〔の〕穴の中に居り、竹根を食ふ鼠なり。大いさ、兎のごとし。人、多く、之れを食ふ。味、鴨肉のごとし。凡そ、羊を煮るに、䶉を以つてし、鼈〔(すつぽん)〕を煮るに、蚊を以つてす。物性、相感〔するもの〕なり。
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むささび
鼯鼠
のぶすま
△按ずるに、鼯鼠は、毛色・形、畧〔(ほぼ)〕鼠に似て、肉の翼(つばさ)有るなり。【原禽類〔の〕「伏翼〔(かはほり)〕」の次〔じ〕[やぶちゃん注:次第。当該項の解説。但し、これは「和漢三才圖會第四十二 原禽類 䴎鼠(むささび・ももか)(ムササビ・モモンガ)」の項の誤り(「伏翼(かはほり)(コウモリ)」はその前項)。]に詳らかなり。】。
[やぶちゃん注:齧歯目ネズミ亜目ネズミ下目タケネズミ科タケネズミ亜科Rhizomyinae に属するタケネズミ(竹鼠)類。平凡社「世界大百科事典」によれば、中国中部及び南部からアッサム・マレー半島・スマトラにチュウゴクタケネズミ Rhizomys sinensis など三種が分布する。体長は二十三~四十八センチメートル、尾長は五~二十センチメートル、体重は一~四キログラム。体幹は太く、四肢が短くて、耳介と目が小さい。前足の爪、特に第三指の爪が長く、穴掘りに適応している。上下の門歯は大きく口外へ突出し、これは穴掘りにも使用する。竹の下に穴を掘り、その根を摂餌する。
「羊を煮るに、䶉を以つてし、鼈〔(すつぽん)〕を煮るに、蚊を以つてす。物性、相感〔するもの〕なり」「鼈」は潜頸亜目スッポン上科スッポン科スッポン亜科 Trionychinae に属するスッポン類(世界的には約十三属を数えるが、中国産では養殖食用種として著名なキョクトウスッポン属シナスッポン Pelodiscus sinensis がまず挙げられる(本邦にも生息するが、在来種ではないと思われる)。因みに本邦種は大陸にも棲息する同属のニホンスッポン Pelodiscus sinensis。但し、本邦種は在来個体群(大陸からの侵入・移入個体ではなく)のものとしてこれを Pelodiscus sinensis japonica として亜種と見る向きもある)。孰れも五行の性質から、肉を柔らかくするということを謂う。このスッポンとの相制については、「和漢三才圖會 卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類」の「鼈」の「本草綱目」の引用にも、
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蚊を畏る。生きたる鼈、蚊に叮(く)はれ、遇して、則ち、死す。死したる鼈、蚊を得て煮るときは、則ち爛〔(ただ)〕[やぶちゃん注:煮崩れる。]る。蚊を熏〔(くん)〕ずるに、復た、鼈甲を用ひてす。物、報-復(むく)ふこと此くのごとし。異なるかな。
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とある。「物、報復ふこと」とは、蚊に刺されると死に、一緒に煮ると、その体を解かすという、正に鼈の天敵である蚊に対して、死んだ鼈の甲羅が、蚊を退治するための燻しに用いられるということは、本来、生時の一方向の「制」のベクトル(蚊が鼈を制する)でも、生死という位相が変じれば、逆のベクトルとしての「制」が発生するという、物質同士の互換性のある相互的因果応報があるということを指しているようである。
「鼯鼠」及び誤った「伏翼」については、上記リンク先の本文と私の注を参照。ムササビ・モモンガ・コウモリ類を中国の本草書が鼠類や鳥類と重複誤認するのは、その体型から判らなくはない。]
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