少女の死を悼みて 伊良子清白
少女の死を悼みて
何を悲しむ百合の花
なにをはぢらふ花さうび
なにをおそるる蓮のはな
夏の夕をただ一人
少女は行きぬうらぶれて
打かたぶける百合の花
紅なせる花さうび
色蒼ざめし蓮のはな
ふるひつ泣きつ悲しみつ
夏の夕を語るなり
[やぶちゃん注:初出は明治三六(一九〇三)年十一月発行の『文庫』であるが(署名「清白」)、総標題「野菊」として、「さゝなきしては」「秋風白々」と、本「少女の死を悼みて」「墓場を出でゝ」の四篇からなる。初出との有意な異同を認めない。但し、「さゝなきしては」「秋風白々」の二篇は底本全集では後の「未収録詩篇」(これは以前に述べたように詩集「孔雀船」と新潮社の「伊良子清白集」に未収録の意)の中で、『翻訳詩』として載っており、そこには後書きで『(Uhland のうたのこゝろを)』と記してあり、次に紹介する「墓場をいでて」(初出は「墓場を出でゝ」の標題)の初出のそれにも同じ添書きが最終行末にある。 「Uhland」はドイツ・ロマン派の詩人ウーラント(Johann Ludwig Uhland 一七八七年~一八六二年)で、の翻案詩らしい。さすれば、「さゝなきしては」「秋風白々」「墓場を出でゝ」はそのウーラントの詩篇の翻案詩であるとすれば、間に挟まれた本「少女の死を悼みて」のみが創作しであるというのは、やや不自然の印象を免れぬ。しかも次の「墓場をいでて」は本篇と強い親和性を感じさせる。これも私は『(Uhland のうたのこゝろを)』を詠じたものと思う。]