車に乘りて 伊良子清白 (ハイネ訳詩/附・生田春月訳)
車に乘りて
車に乘りて夜もすがら
君と行きけりくらやみを
いだきつ戲(ざ)れつ微笑(ほゝゑ)みつ
胸と胸とを押しよせて
されど其夜のあけしとき
われ等のおどろきいかなりし
二人の中に旅路行く
盲アモルは坐りけり
[やぶちゃん注:明治三六(一九〇三)年十一月発行の『文庫』初出(署名「清白」)であるが、総標題「夕づゝ(四)(Heine より)」の下に、「綠の牧場」・本「車に乘りて」・「われの言葉を」・「心を痛み」・「春」の五篇からなる。本篇はPDサイト「PD図書室」のこちらの昭和一〇(一九三五)年二十四版新潮文庫刊生田春月(明治二五(一八九二)年~昭和五(一九三〇)年)譯「ハイネ詩集」の訳によるなら、一八二六年初版一八三〇年再版の詩集“Reisebilder”(「帰郷」)の第七十四歌であるが、ドイツ語が解らない私の力では原詩は捜し得なかった。「盲アモル」(めくらアモル)は以下の生田の後注を参照。以下に生田の上記リンク先のそれを示す。
*
七十四
夜つぴてわたしたちは二人きり
郵便馬車で旅をした
互の胸にもたれてやすんだり
ふざけ散らしたり笑つたり
ところがとうと夜が明けたとき
いとしい人よ、二人はどんなに驚いたか?
二人の間にはすわつてをつた
戀アモオルが、あの盲目の旅人が
(獨逸では無賃の乘客をも盲目の旅人といふ)
*]
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