四季の鳥 伊良子暉造(伊良子清白)
四季の鳥
春
雉子なく野の朝霞、
人くと來なく鶯の、
こゑをしるべにきてみれば、
空に雲雀もさへづりて。
夏
古巢にこもる鶯の、
老聲のみか水鷄なく、
野澤の月に時鳥、
なく初聲もきこゆなり。
秋
鴫たつ澤の夕まぐれ、
うづらの床に月澄みて、
秋風淸くかりがねの、
遠くわたるも見ゆるなり。
冬
鳰の通路こほりゐて、
千鳥しばなく島陰に、
ねぶれる鴛鴦の一つがひ、
いかにとけたる中ならし。
[やぶちゃん注:明治二八(一八九五)年八月二十五日の『文庫』第一巻第一号掲載(『少年文集』を引き継いで改題)。署名は本名の伊良子暉造。
「雉子」私の「和漢三才圖會第四十二 原禽類 野鷄(きじ きぎす)(キジ)」をどうぞ。綿の注で学名その他生態を詳しく説明してある。以下、同じ。
「鶯」「和漢三才圖會第四十三 林禽類 鶯(うぐひす)(ウグイス)」。
「雲雀」「和漢三才圖會第四十二 原禽類 鷚(ひばり)(ヒバリ)」。
「水鷄」和漢三才圖會第四十一 水禽類 水雞(クイナ・ヒクイナ)。
「時鳥」「和漢三才圖會第四十三 林禽類 杜鵑(ほととぎす)(ホトトギス)」。
「鴫」「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鷸(しぎ)(シギ類)」。
「うづら」「和漢三才圖會第四十二 原禽類 鶉(うづら)(ウズラ)」。
「かりがね」「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鴈(かり・がん)(ガン類)」。
「鳰」「にほ」(現代仮名遣「にお」)。鸊鷉(かいつぶり)の古名・異名。「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鸊鷉(かいつぶり)(カイツブリ)」を見られたい。
「千鳥」「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鴴(ちどり)(チドリ類)」。
「鴛鴦」韻律から「をし」(現代仮名遣「おし」)と訓じているものと思う。「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鴛鴦(をしどり)(オシドリ)」。]