休らひの谷 伊良子清白
休らひの谷
終焉(をはり)の夕陽(ゆふひ)金(こがね)の色に
雲の峯を峙て
アルペンの山なすあらはれぬ。その時よ
われはいくそたびとなく
淚もてとびぬ
かく美しき雲の間に
わがあこがるる微妙(いみ)じき
休らひの谷はありやと
[やぶちゃん注:初出は明治三九(一九〇六)年四月発行の『文庫』であるが(署名「清白」)、総標題「きらゝ雲」として、本「休ひの谷」を筆頭に、「かへし」「ちごのをはり」「運命」「鹿」「よきねがひ」「秋」「君の園生に」「涅槃」「さいはひ」(表記はママ)の十篇から成っている。初出は有意な異同を認めない。]