忍ぶ戀 羅月(伊良子清白)
忍 ぶ 戀
やなぎの糸の下た蔭に、
戀ひしき妹の聲すなり、
こゝろの駒は狂へども、
流石に思ひとがめつゝ、
えも云び寄じ割なくも、
思ひを碎くばかりにて。
ものゝ歸さに妹が家の、
軒にしばしと佇ずめば、
よもやと思ふ妹はしも、
打ち笑みつゝも恥ひて、
窓のとぼそを鎖しけり、
けしき斗りは鎖しえで。
へたてぬ心知りつゝも、
何とてかくも隔てして、
むねにあまれる一端も、
明かさで仇に過すらん、
云ぬ戀路のなかなかに、
忍ぶ思ひのますものを。
[やぶちゃん注:明治二九(一八九六)年十一月『新聲』掲載。署名は「羅月」。底本ではこれが同年(満十九歳)最後の詩篇。]
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