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2019/05/27

箒木集 すゞしろのや(伊良子清白)

 

箒 木 集

 

 

 野中の井

 

野中にたつる碑に、

なれを傳へん人あらば、

男をこひてこの井より、

地獄に行きしとかくやらむ、

その碑はいつはりよ。

 

今こそ母が懺悔する、

むかしの罪を汝はきかず、

さはいへなれがこの水に、

はてし恨の眞情こそ、

母がしりたれこのはゝが。

 

汲まずなりたる桔槹、

石は草生にころげ落ち、

井筒もくちて村すゝき、

たけたかくこそかくしたれ、

のぞけば面わなづるまで。

 

いふぞよまゝ子まゝ母が、

まがりはてたるこゝろより、

つれ子のこひを遂げんとて、

なれをさいなみくるしめて、

舌の刃にころせしぞ。

 

なれはわが子をつゆこはず、

されど戀へりと人はいふ、

このまゝ母もしかいひぬ、

妹脊の契結べよと、

なれに强ひしもいくそ度。

 

こひに狂ひておろかにも、

死にしわが子をにくむとも、

あとをおひたるながこころ、

手をうち合せこの母が、

佛菩薩とも拜むなり。

 

 

  對 花 詞

 

ふかきまことのこの菊に、

こもれるものをいかなれば、

いひいでがたき世の中の、

千々にあまれることばもて。

 

 

  長 思 吟

 

やさしときみを思へども、

われはこひせじ長しへに。

 

こひするをりは短くて、

うれひのつくるときぞなき。

 

きみもこひすることなかれ、

こひしてやすきものやある。

 

花の姿のしほれんに、

いたまさらめや人みなの。

 

 

  妹脊の中

 

にごりはてたるうつし世は、

みなあさましく見ゆれども、

いもせの中のまごゝろは、

かみ代ながらに深くして。

 

こゝろのうちのかなしさを、

かたみに二人なぐさめて、

かたり暮さばなかなかに、

たのしかるらめうき世こそ。

 

綾もにしきもなにかせん、

いもせの中のへだてより、

袖になみだのたえざらば、

ふかきおもひに沈みつゝ。

 

いもせの中のかたらびは、

まづしかるこそ親しけれ、

物はたらはぬ折にこそ、

こゝろのまこと見えもすれ。

 

まづしきものゝ妹と脊よ、

なうらやみそとみ人を、

たからとたのむとみゆゑに、

うき世は波のさわぎつゝ。

 

ことばにいやをしらずとも、

なれら二人のまごゝろの、

なかよりいでしゑまひこそ、

えがたかりけれ人みなは。

 

[やぶちゃん注:明治三一(一八九八)年一月五日発行の『文庫』掲載。署名は「すゞしろのや」。本年十月四日を以って伊良子清白満二十一歳で、京都医学校四年生。

「桔槹」音は「ケツ(ッ)コウ」「キツ(ッ)コウ」であるが、ここは訓じて「はねつるべ」(撥ね釣瓶)である。なお、この第一篇「野中の井」は所謂、「継子の井戸掘り」譚をベースにしている。この「継子いじめ」の一類型については、「日本大百科全書」に以下のようにある。『「継子話」の歴史は古』く、『中国では古代の君主として著名な舜』『の生い立ちの史伝が「継子話」になっている。司馬遷』の「史記」(紀元前一世紀成立)に『詳しい。舜は継母に虐待され、堯』『王の』二『人の娘と結婚したあと、継母の実子の象(ぞう)の策略で殺されそうになる。倉の修理を言いつけられて倉に上ったところを下から火をつけられたり、井戸さらいをしろといわれ』、『井戸に入ると』、『生き埋めにされたりするが、妻の助言で』、『ことなきを得る。原拠と』する「書経」の当該『本文は伝わらないが、すでに』「孟子」(紀元前四世紀成立)に『みえる。舜自体、伝説的な存在で、この史伝はきわめて古い物語に由来するらしい。舜の物語を「継子話」としてまとめた俗講文学に、敦煌』文書「舜子至孝変文」(九五〇年成立)などがある』。『この「舜子変文」は、そのままの形式で、日本では「継子の井戸掘り」の昔話として知られているが、類型群としては、チベット語とモンゴル語で書かれた中世的な』「不思議な屍体の物語」の中の『「日光月光(にっこうがっこう)」の話や、古代的な』「観世音菩薩浄土本縁経」(但し、偽経とされる)の中の『「早離速離(そうりそくり)」の話などとも同一』の『範疇』『に属する。この』、『父親の留守中に継母が継子を亡きものにしようとする話は、日本では、鎌倉後期の』「箱根権現絵巻」や物語草子の「月日(つきひ)の本地」『などの本地物になり、昔話では「お銀小銀」として伝わっている。一つの範疇の「継子話」が、東アジアでは』実に二千五百年もの時間を『隔てて』、この原型が『生き続けていたことがわかる』とある。]

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