甲子夜話卷之六 1 林子、古歌を辨ず
甲子夜話六
6-1 林子、古歌を辨ず
林氏云。「碧玉集」二、
くだる世に生れあふ身は昔とて
しのばむほどの心だになし
今其時を去る事又數百年なれば、昔を忍ぶ人の稀なるも怪しむべからず。近き世の一節あることさへ、今は語り合ふ友も少ければ、見るにつけ聞につけつつ語り候半。間中の慰寂に、筆まめに書とり玉へ。左あらば昔忍の草、此春雨におひひろごり申べし迚、ひたものひたもの慫慂なれば、又此册を書はじめけり。
■やぶちゃんの呟き
最後は本巻の巻頭言となっている。
「林子」お馴染みの静山の友人である林述斎。
「碧玉集」「碧玉和歌集」。室町後期から戦国期の下冷泉家の公卿で歌人の冷泉政為文安三(一四四六)年~大永(たいえい)三(一五二三)年)の家集。父持為は下冷泉家の祖。正二位・権大納言。後柏原天皇時代の歌壇で活躍し、本家集は後柏原天皇の「柏玉集」、三条西実隆の「雪玉集」とともに「三玉集」と称され、重んじられた。初名は成為であったが、足利義政より「政」の字を偏諱(へんき)を受けた。所持しないので歌の校合は出来ない。
「候半」「さふらはん」。
「間中」「かんちゆう」か。一般的ではないが人の命の「僅かの間」の意味か。
「慰寂」底本で編者は二字に『なぐさみ』と振る。
「ひたもの」副詞。ひたすら。やたらと。
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