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2019/06/03

うたかた すゞしろのや(伊良子清白) (河井酔茗・横瀬夜雨との合作)

 

うたかた

[やぶちゃん注:本篇は明治三一(一八九八)年七月二十日発行の『文庫』掲載。署名は「すゞしろのや」。但し、河井酔茗・横瀬夜雨(既に示した通り孰れもパブリック・ドメイン)との合作。「さへつる」「さくり」の清音はママ。なお、「未通女」「おぼこ」の当字で、ここは未だ世間慣れ(擦れ)していない若い女性の意。また「閻浮」は「えんぶ」で「閻浮提(えんぶだい)」のこと。仏教の世界観での「四洲(ししゅう)」の一つ。須弥山(しゅみせん)の南方の海上にあるとする巨大な島で、その中央には閻浮樹(えんぶじゅ)の大森林があり、諸仏が出現する島とされた。具体にはインドを指したが、その後は辺縁に拡大し、遂には人間世界及び三世(さんぜ)の内の現世(げんせ)の代名詞となった。他に「閻浮洲」「瞻部(せんぶ)洲」等とも呼ぶ。]

 

もゝ舟はつる夕つけの、

鳥羽の港は見えながら、

白帆まきては碎けゝん、

三河のあまの小舟はも。

 

黑髮長きくはし女の、

蛋にあらねば汐なれぬ、

花の衣のかゝりては、

岸のいはほも靡きけん。

 

柩を土にをさむれば、

雲雀さへつる春の野の、

つぼすみれ咲く靑草も、

慰み難き墓なるを。

 

夫に嫁ぐとて行きしこの、

沈める舟のあと見ては、

答志の浦に玉藻刈る、

未通女の歌もつらきかな。

 

逆汐いかゞ荒くとも、

海になれたるかこならば、

み命ばかりたゝでもと、

思ふもあはれ數ならで。

 

いらこ岬のあらいはに、

くつをもめさで泣倒れ、

こかれたまへる妹君は、

今も渚にまたすらん。

 

さすが別れを惜みてか、

琴のつれびき遊ばして、

よめりをいはふ盃に、

むせびませしも今朝なれば。

 

せめて空しきからをだに、

さくり求めて歸らんと、

浪のまにまにかいやれど、

其れかと思ふちりもなく。

 

閻浮を戀ふるなき魂の、

若しも我身にうつりなば、

鳥羽の港にさす棹の、

せめて力もあるべきを。

 

今宵よりして吾妹と、

呼ばゝん人は世を代へて、

みなわの痕もなきぞとは、

雲の色にもさとるまじ。

 

數の小島は廻れども、

君待つ磯はあらなくに、

哀しき今日も立ちこむる、

汐のけふりにくれてゆく。

 

かへらぬ浪のあと追ひて、

何處にはてむわが舟ぞ、

七十五里の灘の上、

隈なく渡る月はあれど。

 

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