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2019/06/04

きりの海 すゞしろのや(伊良子清白)

 

きりの海

 

林の鍛冶がうつ槌に、

火花は軒を照らせども、

栗の木立の葉を山茂み、

星はさやかに見えわかず。

 

鳴子にあまる秋風に、

袂吹かせてたゝすめば、

山田のくろの豆がらに、

夕の聲のさわぐかな。

 

西にかたぶく天の川、

紅葉の橋はたえぬれど、

立ちわたりたる霧の海、

こひする人やながむらん。

 

谷の祠に供へたる、

山の木の實をぬすまんと、

古きとびらに身をよせて、

霧にまよへる野狐よ。

 

狸は鼓うつ夜の、

さやけき月にかくれすみ、

をぐらき森の下陰に、

追行く人を欺きし、

百千にあまるともしもて、

今宵の闇をてらし見よ。

 

月の笠こそかくれたれ、

蓑着て皈るわが門に、

霧は早くも迎ふれど、

杉の木末の見えざれば、

佇みて嗅ぐ百里香。

 

[やぶちゃん注:明治三二(一八九九)年十二月二十七日発行の『よしあし草』に、既に電子化した「霰」とともに掲載された。署名は「すゞしろのや」。この年、伊良子清白二十二歳。この三月、京都府立医学校の卒業試験に失敗したものの、追試験で合格し、八月に卒業している。同月、医術開業免状を取得し、父政治が転任して医院を構えていた三重県紀伊木本町(現在の熊野市)へと向かった。しかし、九月に父に懇請し、故郷鳥取県八上(やかみ)郡曳田(ひきた)村(現在の鳥取市河原町(かわはらちょう)曳田。グーグル・マップ・データ)に念願の帰郷を果たし、秋から冬にかけて滞在、その間に上京を決意、翌明治三十三年一月に上京、二月より日本赤十字社病院内科の医員試補として勤務を始めた。こうした実生活上の経緯からであろう、この年は一年の間、慣れ親しんだ『文庫』への投稿が全くなく、この『よしあし草』への短歌や俳句及び短歌の評を七回投じたきりで発表作品が極めて少なく(以上は底本全集の年譜及び著作年表のデータに拠る)、底本の詩篇の本年のパートはこの一篇のみである。

「百里香」(ひゃくりこう」現代仮名遣)は双子葉植物綱キク亜綱シソ目シソ科イブキジャコウソウ(伊吹麝香草)属イブキジャコウソウThymus quinquecostatus 或いはその亜種を含んだ異称。ウィキの「イブキジャコウソウ」によれば、『茎は細く、地表を這い、よく分枝する。枝には短い毛があり、直立して高さは』三~十五センチメートル『になる。葉は茎に対生する。葉身は卵形から狭卵形で、先端は鈍頭、長さ』五~十ミリメートル、幅は三~六ミリメートル。全草に『芳香がある』『花期は』六~八『月。枝の先端に短い花穂をつける。花冠は紅紫色の唇形で、上唇はわずかに』二『裂して直立し、下唇は』三『裂して開出する。萼は筒状鐘形の唇形となる。雄蕊は』四『本ある。果実は分果となり、やや扁平となる』。『和名は、伊吹山に多く産し、芳香があることから付けられた』。本邦『では、北海道、本州、九州に分布し、海岸から高山帯までの日当たりの良い岩地に生育する。アジアでは、朝鮮、中国、ヒマラヤに分布する』とある。同ウィキの画像をリンクさせておく。]

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