魳子曳き 伊良子清白
魳子曳き
いばら背負(しよ)やこそ
女房はなげく
裸百貫荒灘稼ぎ
酒の負債(おいめ)が
海まで責(は)たる
雪のふる日に
魳子(こなご)曳き
註 魳子(こなご)は魳(かます)の幼魚、
荒天風雪の日に漁獲するを利とす。海上網を
投じ急遽之を曳く、ために往々漁船の顚覆す
ることあり。
[やぶちゃん注:昭和五(一九三〇)年三月一日発行の『民謠音樂』(第二巻第三号)に掲載。署名は「伊良子清白」。
「魳子」「こなご」「魳(かます)の幼魚」条鰭綱スズキ目イカナゴ亜目イカナゴ科イカナゴ属イカナゴ Ammodytes personatus の幼魚の異名の一つ。ウィキの「イカナゴ」によれば、『様々な地方名があり、稚魚は東日本で「コウナゴ(小女子)」』(無論、私もこれで認識している)、『西日本で「シンコ(新子)」。成長したものは北海道で「オオナゴ(大女子)」、東北で「メロウド(女郎人)」、西日本では「フルセ (古背)」、「カマスゴ(加末須古)」、「カナギ(金釘)」などと呼ばれる。イワシなどと並んで沿岸における食物連鎖の底辺を支える重要な魚種である。季語、晩春』。『北半球の寒帯域から温帯域を中心に熱帯域まで、世界中に』五属十八種が分布し、沿岸の粒径〇・五から二ミリメートルの』『砂泥底に生息し、主にプランクトンを餌としている』。『日本産イカナゴは移動性が小さく』、『各地に固有の系統群が存在している』。『北方系の魚であるため』、『温暖な水域では夏には砂に潜って』、『夏眠を行う』。『水深』十~三十メートルの『砂底に粘着質の卵を産卵する。産卵期は冬(』十二『月)から翌年春(』五『月)で』、『寒冷な水域ほど』、『遅くなる』。一歳で十センチメートル『程度まで成長し、成熟』し、三年から四年で二十センチメートル『程度まで成長する』。『日本では沿岸漁業の重要な位置にあり、集魚灯を用いた敷網漁や定置網漁、船曳網により捕獲され、生食や加工用のほか養殖用飼料としても利用される。しかし、乱獲や生息環境の悪化および海砂の採集による生育適地の破壊』『により、日本各地で漁獲量は激減している。伊勢湾や瀬戸内海では年ごとに生育度合いや推定資源量を調査し』、『その年の漁獲量を決定している』。『特に、瀬戸内海では夏眠に適した粒度分布の海砂がコンクリートの骨材にも適していたため』、『夏眠水域の海砂が建設資材として大量に採取され、多くの漁場は壊滅的被害を受けた』。伊勢湾では、現在、冬季に資源調査を行って、春の漁獲実施の可否を判断しているが、二〇一六年及び二〇一七年には、前年末から二月にかけて行われた資源調査の結果、稚魚の捕獲数が著しく少なかったため、愛知県及び三重県では禁漁となっている。『兵庫県淡路島や播磨地区から阪神地区にかけての瀬戸内海東部沿岸部(播磨灘・大阪湾)では』、『イカナゴは』「いかなごの釘煮」という郷土料理として『親しまれている。佃煮の一種で、水揚げされたイカナゴの幼魚(新子)を平釜で醤油やみりん、砂糖、生姜などで水分がなくなるまで煮込む。この際、箸などでかき混ぜると身が崩れ、団子状に固まってしまうため』、『一切』、『かき混ぜない。炊き上がったイカナゴの幼魚は茶色く曲がっており、その姿が錆びた釘に見えることから』、『「釘煮」と呼ばれるようになったとする説が有力である。「くぎ煮」は神戸市長田区の珍味メーカーである株式会社』「伍魚福(ごぎょふく)」の『登録商標である』。『解禁と同時に水揚げされた』二センチメートル『ほどのいかなごの幼魚は、鮮度が落ちないよう』、『収穫後』、『ただちに釜揚げにされ、店頭に並ぶ。これを』「新子」又は「新子ちりめん」と『呼ぶ。釜茹でした後に乾燥させたものは』「カナギ(小女子)ちりめん」と『呼ばれる。これより大きいもの、およそ』四~五センチメートルの『大きさのものを釜茹でしたものは』「カマスゴ」と『呼ばれ、そのまま酢醤油やからし酢味噌で食べる。この際、一度炙ると香ばしさが出ておいしくなる』。『阪神地区、播磨地区では』、『春先になると』、『各家庭でイカナゴの幼魚を炊く光景が見られる。また』、『毎年』三『月末頃、出荷された釘煮が阪神地区、播磨地区のスーパーに山積みされるようになると、春の訪れとして消費が盛り上がる。明石海峡大橋のたもとにある淡路サービスエリアやJR新神戸駅・新大阪駅、神戸空港、大阪国際空港、関西国際空港などの土産物店でもイカナゴの釘煮は販売されており、生姜味のほか』、『山椒味、唐辛子味のものもみられる』。『なお、近畿地方のなかでも、前述の地域を除く他の地域ではイカナゴの釘煮は』、『あまり食されない。例えば』、『京都市では』、『いかなごの釘煮よりもちりめん山椒が主流である。年配者の中にはイカナゴ自体を下魚として嫌う傾向も散見される。また、前述の通り、一般にいかなごのくぎ煮は、幼魚である新子を調理したものであるが、淡路島などでは成魚であるフルセを調理する地域もある。フルセを調理したものはくぎ煮と明確に区別するため、佃煮の名称で扱われる』とある。いつもお世話になっている「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」の「イカナゴ」もリンクさせておく。「漢字・学名由来」の「語源」パートの、『「いかり魚=カマス」の幼魚の意味。地方の呼び名に「かます子」とあるのと同じ。「いかり」とは「いかる=とがる」の意味で』、『栗の毬(いが)と同義語』。『イカナゴの小さいものが、いかなる魚の子であるかわからないため、「如何子」の意味』ともあり、さらに『〈い〉は語声強調の接頭語、〈かな〉は古語で糸のように方添いもの、〈ご〉は接尾語』とあって、まさにまさに眼から「鱗」!]
« 柳田國男 山島民譚集 原文・訓読・附オリジナル注「馬蹄石」(36) 「池月・磨墨・太夫黑」(3) | トップページ | 伊良子清白の二つの文章を以前の記事の間に遡及挿入させた »