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2019/06/18

吐綬鷄の賦 伊良子清白

 

吐綬鷄の賦

 

七面鳥は飛ばぬ鳥ですが

笑ふ鳥です

また、歌ひ手です

希代の艶魔で

煤を朱にする羽根を持てゐます

古風な勇婦ですが

また、派手な近代女性です

老孃で肥滿家です

日光の健啖家です

吐綬鳥です

美しい肉の組紐を見せびらかします

 

巴峽や閩廣(びんくわう)の山中には

野生の七面鳥が棲むといひます

それは神話中の鳥です

あなたの家の主婦は

朝な朝な大空によびかけます

天使は靑銅色と黑色とを授けます

七面鳥は廢墟ですか

そうです、薔薇の谷です

七面鳥は爛れてゐますか

そうです、美は創痍(きづ)の一種です

七面鳥は春の鳥ですか

そうです、地上の太陽です

 

七面鳥は殺さないで下さい

   (お聽きなさい)

千一夜物語の美女の肉が

巨人の家の鍋の底で

黑焦げに成つたといひます。

 

[やぶちゃん注:昭和六(一九三〇)年十一月一日発行の『女性時代』(第二年第十一号)に掲載。署名は「伊良子清白」。「創痍(きづ)」のルビはママ。

「吐綬鷄」ここはまずは、アメリカ合衆国・カナダ南部・メキシコに分布するキジ目キジ科シチメンチョウ亜科シチメンチョウ属シチメンチョウ Meleagris gallopavo の異名としてよかろう。和名「七面鳥」は、頭部や頸部の羽毛がない赤い皮膚が露出して発達した肉垂(にくだ)れが、興奮すると赤・青・紫などの色に変化することに由来する。羽色は暗褐色と暗緑色とからなり、金属光沢を有する。しかし、詩篇中、第二連で中国の山中に「野生の七面鳥が棲む」として語られるのは、キジ目キジ科ジュケイ属 Tragopan で、全くの別種である。私の「和漢三才圖會第四十二 原禽類 吐綬雞(とじゆけい)(ジュケイ類)」を見られたい。ジュケイ類はインド北部・台湾・中国・ネパール北部・パキスタン北部・ブータン・ミャンマー西部に分布し、ジュケイ Tragopan caboti・ミヤマジュケイ Tragopan blythii・ハイイロジュケイ Tragopan melanocephalus・ヒオドシジュケイ Tragopan satyra・ベニジュケイ Tragopan temminckii がいる。ジュケイ類は♂の側頭部に角のように見える二つの肉質突起があり、頸部の青や黄の肉垂れも大きく膨らむ(但し、この肉質突起と肉垂れは通常は収縮しており、興奮すると見える)。羽色も緋色・褐色・灰色などからなり、白っぽい円形斑紋を多数有し、和名はこの円紋が勲章(「綬」は「勲章に付ける短い紐」のこと)のように見えることに由来する。

「巴峽」「巴猿」の語で知られる湖北省恩施トゥチャ族ミャオ族自治州巴東県(グーグル・マップ・データ)の長江の急峻な渓谷。所謂「三峽」の域内である。

「閩廣(びんくわう)」狭義には福建省南部、広義にはそこに加えて台湾・浙江省南部・広東省東部と西部・海南省などを含むところの、所謂、閩南語を使用する地域の旧名。

「千一夜物語の美女の肉が」「巨人の家の鍋の底で」「黑焦げに成つたといひます」ちゃんと読んだことがないので判らぬが、巨人が出てくるところからは、「ハサン・アル・バスリの冒険(第五百七十六夜~第六百十五夜)」辺りか。]

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