甲子夜話卷之五 34 常憲廟、毒法にて銅中の金を取ることを止らる御仁心の事
5-34 常憲廟、毒法にて銅中の金を取ることを止らる御仁心の事
憲廟御世、國用匱乏に及べる頃、蘭人の、銅に毒藥を塗り、幾度も燒返せば金に變ずると云奇方を識るもの渡來せり。勘定頭の荻原近江守など、荐りに此事を建言せしに、憲廟肯じ玉はず。金は煎して病藥に用ることあるものなり。誤りて毒製の金を用ゆるものあらば、人命に係るべきことなりとて、遂にその事を停めて、行はしめ玉はざりしとなり。
■やぶちゃんの呟き
「常憲廟」五代将軍徳川綱吉。
「匱乏」「きぼふ(きぼう)」。物資が不足していること。「匱」は「尽きる」の意。
「荻原近江守」荻原重秀(万治元(一六五八)年~正徳三(一七一三)年)は旗本で、勘定奉行を務め、管理通貨制度に通じる経済観を有し、元禄時代に貨幣改鋳を行ったことで知られる。
「荐りに」「しきりに」。