短篇一章 すゞしろのや(伊良子清白)
短篇一章
筆筒孔雀の尾羽(をば)を拔きて
弄(ろう)ずる紅顏(こうぐわん)君の爲に
興(きよう)ある傳奇(でんき)講(かう)じ行けば
梅花(ばいくわ)机頭(きとう)の席(せき)に點(てん)ず
氷踏みて藪の前に
橇引く群の後(あと)な追ひそ
裾長紫地に觸るゝを
女人(によにん)と嘲る童子(どうじ)あらん
藏(くら)の小窓(こまど)に獨り凭(もた)れ
柔(やら)かき髮を柱に垂れて
春の午(ご)葉を卷き笛に啣めば
囀(てん)ずる鶯律(りつ)を補ふ
名門(めいもん)の子氏(うぢ)を憚り
野路(のぢ)の末の蓬(よもぎ)に隱れ
時俟つ身と知らず
技藝(ぎげい)の園(その)に落ちんとす
[やぶちゃん注:明治三四(一九〇一)年一月一日発行の『國文學』(第二十五号)掲載(雑誌書誌不詳。底本全集の「著作年表」にはこの誌名と号数の後に『「初日影」』とあるが、これは新年号の謂いか? よく判らぬ)。署名は「すゞしろのや」。
「啣めば」「ふくめば」。]
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