入江のある風景 伊良子清白
入江のある風景
入江のある風景――
リヤス式海岸地形の一角、
白い燈臺が君臨する。
蜑女(あま)の眼鏡は黑い。
海圖にある大松が、
今日は全幹を以て震搖する。
内灣は川のやうに、
陸地に侵入した。
何と光つた秋の空だ、
鷗の翼が燒失する。
[やぶちゃん注:昭和七(一九三二)年九月一日発行の『女性時代』(第三年第九号)に前の「神島外海」とともに掲載。署名は「伊良子清白」。
「リヤス式海岸地形」リアス式海岸。「rias」はスペイン語で「深い入り江」(「ria」で「入江」)の意で、スペイン北西部ガリシア地方の入り江の多い海岸地形に因む)浸食で多くの谷の刻まれた山地が、地盤沈降又は海面上昇によって沈水し、複雑に入り組んだ海岸線を形成したものを指し、本邦では三陸海岸・志摩半島・若狭湾などが代表的である。]