神島外海 伊良子清白
神島外海
どうしてこんな景色があるか。
靑い髮の海が食ひちぎつたのだ。
危巖亂立、目もはるかに續く。
波の手が白く閃めく。
ど、ど、どーん、ど、ど、どーん、
ひつきりなしの釣瓶打だ。
天地廓寥、ただ響。
この沸えくりかへる坩堝(るつぼ)が、
がらんどうの中でつぶやく。
灰色の退屈が、
霧のやうに降るではないか。
[やぶちゃん注:昭和七(一九三二)年九月一日発行の『女性時代』(第三年第九号)に次の「入江のある風景」とともに掲載。署名は「伊良子清白」。この年、伊良子清白、満五十五歳。年初より歌誌『白鳥(しらとり)』への短歌の投稿が定期的となり、十月からは『鳥人』で毎号短歌評も手掛けるようになった。十二月四日、佐藤惣之助が来訪、一泊している。
「神島」既出既注。
「廓寥」「くわくれう(かうりょう)」は「広いだけで何もなくて寂しい様子・なんとなく寂しいこと」を謂う。]
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