夏祭 伊良子清白
夏 祭
雲の峯湧く眞晝中
顔(ぬか)より汗は溢(こぼ)れ出で
高くもうつか腕の脈
かつげや神輿(みこし)練(ね)れや町(まち)
胸は廣くも露はれて
聳ゆる肩や怒り肉(じし)
白き埃(ほこり)に塗(まみ)れたる
毛脛(けづね)は集(つど)ひ亂れけり
碎けて落つる金(きん)の鈴
亂れ打ちふる神の輿(こし)
心を奪ひ目を奪ひ
町を縱橫(たてよこ)練りて行く
出で入る息(いき)は荒立ちて
妻子(つまこ)も知らず家も見ず
太(ふと)き縞(しま)なる浴衣地(ゆかたぢ)の
肌ぬぎすつる男振り
汗と膩(あぶら)の眼に入りて
眩(くら)む彼方(かなた)の夏霞(なつがすみ)
咽喉(のんど)の渴(かわ)き鬨(とき)の聲
かつげや神輿(みこし)練れや町(まち)
[やぶちゃん注:明治三四(一九〇一)年九月五日発行の『明星』(第十五号)掲載。署名は「伊良子清白」。]