鼻 伊良子清白
鼻
船長の鼻は航海のたびごとに巨(おほ)きくなる。
母國の港の前で船長は憂鬱になる。
風物蕭々と海は荒れてゐる。
[やぶちゃん注:昭和一二(一九三七)年六月十五日発行の雑誌『媽祖』(第十四冊)に、「題詞(尺牘より)」(「尺牘」は「せきとく(どく)」と読み、「石素 (せきそ) 」「尺書」「尺翰」などとも称し、「手紙」のこと。古来、中国では一尺四方の牘 (木の札) を書簡に用いたことに由来する。日本では狭義にはその由来から漢文体の消息文を指すのが普通)の添えと、旧作の「五月野」・「コロンブス」(前の「海上雲遠」の改題作。本雑誌『媽祖』についてはその私の注を参照されたい)・「鼻」(本篇)及び後に掲げる「梅」「南嶋小曲」の一題詞と五篇で掲載された(これは伊良子清白特集号であった模様である)。署名は「伊良子清白」。伊良子清白、満六十歳。底本全集年譜によれば、この年、『白鳥(しらとり)』『志支浪(しきなみ)』に加えて『志良珠(しらたま)』などの歌誌への投稿がいや盛んとなり、二月には志支浪社が清白還暦記念歌集の上梓を企画したが、清白はこれを謝絶しているとある。
「題詞(尺牘より)」を底本全集の第二巻から電子化しておく。但し、恣意的に漢字を正字化した。
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臺灣では私にはパラダイスです 古い戀です 西方淨土です カナンです
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「西方淨土です カナンです」は「カナンです」が改頁で底本の版組では続いているのであるが、私の判断で一字空けを施した。]

