自然は人に近づきて すゞしろのや(伊良子清白)
自然は人に近づきて
自然は人に近づきて
握手の時を與へけり
破れたる窓に飛び來るは
小鳥にあらぬ木の葉なり。
木の葉を拂ふこと勿れ
蝴蝶の墓も草花の
少さき枕も其中に
葬り隱す庭の土。
かの美しきと盛なると
亡ぼして後冬の日は
若き命の新しき
聲と色とをもたらせり。
八つ手の花の散るところ
南天の實は赤らみて
庭石傳ひいとけなき
冬は笑ひて來りけり。
[やぶちゃん注:明治三三(一九〇〇)年十一月三日発行の『文星』(第四号)掲載。署名は「すゞしろのや」。この雑誌は、恐らく、この年の五月に四海堂から創刊された投稿雑誌と思われる。参照したサイト「大宅壮一文庫」の「創刊号コレクション明治収録雑誌一覧」によれば、社会・学界・詩学・美学・『時流文芸などを募集。投稿作品には文末に寸評を付して掲載』したとある。
「蝴蝶」蝶の美称である「胡蝶」に同じ。
「葬り」「はうふり」。
「かの美しきと盛なると」音数律から「かのくはしきとせいなると」と読んでおく。]
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