海上雲遠 伊良子清白
海上雲遠
コロンブスは西へ西へと走る。――
荒涼と雨と風と、
晝と夜が交織する、
月日は波と共に流れた。――
かくて、
無風帶の暑い夕べ、
水夫が見る磔上(たくじよう)の基督。
赤い日沒の、
壯麗な悲劇の雲が、
遠く遠く聳えてゐた。
[やぶちゃん注:昭和一一(一九三六)年二月二十五日『廣野』(書誌不詳)に先の「かもめ」とともに掲載。署名は「伊良子清白」。「たくじよう」のルビはママ。底本全集の「著作年表」によれば、後に「コロンブス」と改題したとする。それは翌昭和十二年六月十五日発行の雑誌『媽祖(まそ)』(第十四冊)での再録時である。同雑誌は詩誌で、媽祖書房(台湾・台北)から編集兼発行人西川澄子(同書房社主西川満の妻)で、昭和九(一九三四)年十月に発刊、昭和一三(一九三八)年三月まで通巻十六冊が発行されており、内地からの寄稿者は他に西脇順三郎・百田宗治・日夏耿之介や、河上澄生の絵など、錚錚たる面々である。
「交織」「かうしよく」で、元来は「綿糸と絹糸・絹糸と毛糸などを混ぜて織ること」を言う。]