海の墓 すゞしろのや(伊良子清白)
海 の 墓
ますらたけをのおくつきは
黃金よそほふ宮ならじ
砂漠のくにの塔ならじ
たゞおほいなるわだつみを
はかばとわれはこたふべし
たいへいやうのめぐりなる
岸につらなる火の山の
火の環を見ればとこしえに
きみがたてたるいさをしの
花なるさまをあらはして
焰は空にのぼるなり
年うらわかきふなをさは
つとめのために身をすてゝ
おほくの人をすくひけり
沈みし舟にさゝげたる
ふかき感謝の花束は
紅匂ふ珊瑚樹か
巖のうへの星くづか
[やぶちゃん注:明治三三(一九〇〇)年九月十二日発行の『明星』掲載。署名は「すゞしろのや」。「とこしえ」はママ。
「珊瑚樹」マツムシソウ目レンプクソウ科ガマズミ属サンゴジュ変種サンゴジュ Viburnum odoratissimum var. awabuki。ウィキの「サンゴジュ」によれば、朝鮮半島・台湾・東南アジア温帯から亜熱帯地域に野生し、本邦では千葉県以西に分布し、『樹皮は灰褐色で皮目が多く、荒い』。『葉は長楕円形で、縁に小さくまばらな鋸歯がある。光沢と厚みのある革質で、枝から折り取ると白い綿毛が出る。若葉は褐緑~褐色であるが、やがて濃緑色へと変化する』。『初夏に円錐花序を出して小型の白い花を多数開花する』。『夏から秋にかけて赤く美しい楕円形の果実をつける。それを宝石』の珊瑚に喩えて『名付けられた。果実はさらに熟すと藍黒色となる』。『種小名の awabuki に示されるように、厚く水分の多い葉や枝は、火をつけても泡をふくばかりで燃えにくい。それゆえ、火災の延焼防止に役立つともいわれ、防火樹として庭木や生垣によく用いられる。また、魚毒植物としても知られており、沖縄県ではかつて毒流し漁に利用されていた』。現在、『横浜市、大東市、防府市の市の木』であるとある。私は三十二年間に亙って横浜市内の各高校に勤務し続けたが、市の木はサンゴジュだったとはつゆ知らなんだわ。]