甘き木の葉を手に載せて 清白(伊良子清白)
甘き木の葉を手に載せて
一
尊き君の手に解れて
よみがへりたるわが戀よ
尊ききみの手にふれて
花に隱るゝわが戀よ
尊き君の手に觸れて
形失ふわが戀よ
尊ききみの手にふれて
罪と知りぬるわが戀よ
高き調の悲哀(かなしみ)と
淸きしらべのほこりとを
生れながらにそなへたる
尊き君よこび人よ
丈(たけ)にあまれる黑髮を
雙(そう)のかひなにまつはせて
沖の小岩にたゞずめる
尊き君よ戀人よ
二
夢としいはゞ夢ならむ
あゝ夢よりもさらに夢
月に更けたる松原の
彼方に續く砂原
繪を見るごとき海の面に
月の光はかゞやきぬ
きみとふたりが手をとりて
渡らば愛の花咲かむ
甘き木の實を手に載せて
行くは夏の夜磯づたひ
高きにさめしわが戀は
再び君と醉(ゑ)ひにけり
[やぶちゃん注:明治三五(一九〇二)年九月十五日発行の『文庫』(第二十一巻第二号)掲載。署名は「清白」。]