大和本草卷之十三 魚之下 鬼鯛 (マツカサウオ)
【和品】
鬼鯛 丹後ニアリ如石堅乄不可食爲床頭玩物
○やぶちゃんの書き下し文
【和品】
鬼鯛〔(おにだひ)〕 丹後にあり。石のごとく堅くして、食ふべからず。床頭〔(しやうとう)〕の玩物と爲す〔のみ〕。
[やぶちゃん注:たった一行(「和品」は原本では欄外頭書)というのは今までの「大和本草」水族パート中で最短の記載である。鯛型、「鬼」とつけたくなるゴッツゴツっぽい風体、石のように硬く、乾して飾りに出来る……想像通り、小学館「日本国語大辞典」に彼奴(きゃつ)、「松毬魚」の異名となっていたのを見た時は、図に当たって思わずニンマリした。条鰭綱棘鰭上目キンメダイ目マツカサウオ科マツカサウオ属マツカサウオ Monocentris japonica である。ウィキの「マツカサウオ」から引用しておく。『北海道以南の日本の太平洋と日本海沿岸から東シナ海、琉球列島を挟んだ海域、世界ではインド洋、西オーストラリア沿岸のやや深い岩礁地域に生息する』。『本種は発光魚として知られているが、それが判明したのは意外に遅く』、大正三(一九一四)『年に富山県魚津町(現・魚津市)の魚津水族館で停電となった時、偶然』、『見つけられたものである』。『本種の発光器は下顎に付いていて、この中に発光バクテリアを共生させているが、どのように確保するのかは不明である。薄い緑色に発光し、日本産はそれほど発光力は強くないが、オーストラリア産の種の発光力は強いとされる。しかし、発光する理由まではまだよく判っておらず、チョウチンアンコウなどのように餌を惹きつけるのではないかという可能性がある』。『夜行性で、体色は薄い黄色だが、生まれたての幼魚は黒く、成長するにつれて次第に黄色味を帯びた体色へと変わっていくが、成魚になると、黄色味も薄れ、薄黄色となる。昼間は岩礁の岩の割れ目などに潜み、夜になると』、『餌を求めて動き出す』。『背鰭と腹鰭は強力な棘となっており、外敵に襲われた時などに背鰭は前から互い違いに張り出して、腹びれは体から直角に固定することができる。生きたまま漁獲後、クーラーボックスで暫く冷やすとこの状態となり、魚を板の上にたてることができる。またこの状態の時には鳴き声を聞くこともできる』という。『和名の由来通り、マツの実のようにややささくれだったような大きく、固い鱗が特徴で、その体は硬く、鎧を纏ったような姿故に英語では』Knight Fish・Armor Fish『と呼び、パイナップルにも似た外観から Pinapple fish と呼ぶときもある』。『日本でもその固い鱗に被われた体から』「ヨロイウオ」、『鰭を動かすときにパタパタと音を立てることから』「パタパタウオ」とも『呼ぶ地方もある』。『体は比較的小さく、成魚でもせいぜい15cm程で、体に比べ、目と鱗が大きく、その体の構造はハコフグ類にも似ている。そして、その体の固さから動きは遅く、遊泳力は緩慢で、体の柔軟性も失われている』。『餌は主に夜行性のエビなどの甲殻類だといわれる』。『本種はあまり漁獲されないことから、経済効果にはそれほど貢献しないものの、食用にされている』。『硬い体は包丁が通らないが、5~10分ほど煮たり、加熱すると鱗が取れ、中の肉を食べやすくなる。白身でやや柔らかく、美味な食感である』。『緩慢な動きがユーモラスなので、水族館で飼育されたり、内臓を取って干した個体を置物として売る場合もある』とある。なお、荒俣宏氏の「世界大博物図鑑2 魚類」(平凡社一九八九年刊)の「マツカサウオ」の記載によれば、『太平洋岸の各地域では』、『マツカサウオを魔よけとして門戸にかけることがある』。『おそらくその鋭い刺が』、『魔よけの能力をもつと信じられたからであろう』と記しておられ、これは、ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のマツカサウオのページの一番最後に、『俗間』、『何かのまじなひとして門戸にかけることがある』(宇井縫蔵「紀州魚譜」(昭和四(一九二九)年淀屋書店刊)と引き、『魔除け 家の入り口に吊しておく。子供や家族が病気にならないように家の入り口に吊しておく。この特異な姿に鬼などが恐れるとしてためか』として、兵庫県南あわじ市沼島での写真を掲げておられる。
「床頭」とは「寝床の傍・枕元」の意であるから、「玩物」と言っているものの、或いはこの魔除けの効果を期待してのことかも知れない。]