フォト

カテゴリー

The Picture of Dorian Gray

  • Sans Souci
    畢竟惨めなる自身の肖像

Alice's Adventures in Wonderland

  • ふぅむ♡
    僕の三女アリスのアルバム

忘れ得ぬ人々:写真版

  • 縄文の母子像 後影
    ブログ・カテゴリの「忘れ得ぬ人々」の写真版

Exlibris Puer Eternus

  • 20250201_082049
    僕が立ち止まって振り向いた君のArt

SCULPTING IN TIME

  • 熊野波速玉大社牛王符
    写真帖とコレクションから

Pierre Bonnard Histoires Naturelles

  • 樹々の一家   Une famille d'arbres
    Jules Renard “Histoires Naturelles”の Pierre Bonnard に拠る全挿絵 岸田国士訳本文は以下 http://yab.o.oo7.jp/haku.html

僕の視線の中のCaspar David Friedrich

  • 海辺の月の出(部分)
    1996年ドイツにて撮影

シリエトク日記写真版

  • 地の涯の岬
    2010年8月1日~5日の知床旅情(2010年8月8日~16日のブログ「シリエトク日記」他全18篇を参照されたい)

氷國絶佳瀧篇

  • Gullfoss
    2008年8月9日~18日のアイスランド瀧紀行(2008年8月19日~21日のブログ「氷國絶佳」全11篇を参照されたい)

Air de Tasmania

  • タスマニアの幸せなコバヤシチヨジ
    2007年12月23~30日 タスマニアにて (2008年1月1日及び2日のブログ「タスマニア紀行」全8篇を参照されたい)

僕の見た三丁目の夕日

  • blog-2007-7-29
    遠き日の僕の絵日記から

サイト増設コンテンツ及びブログ掲載の特異点テクスト等一覧(2008年1月以降)

無料ブログはココログ

« 小泉八雲 佛敎に縁のある動植物  (大谷正信譯) / その1 | トップページ | 小泉八雲 佛敎に緣のある動植物  (大谷正信譯) /その3 ~「佛敎に緣のある動植物」~了 »

2019/10/17

小泉八雲 佛敎に緣のある動植物  (大谷正信譯) /その2

 

[やぶちゃん注:本篇については「小泉八雲 仏教に縁のある動植物(大谷正信譯)/その1」の私の冒頭注を見られたい。]

 

 眞言宗の日本の大祖師クウカイ卽ちコウボフダイシは、またその名簿の中に一つの地位を有つて居る。コウボフムギ(弘法大師の麥)は學名カレツキス・マクロセフアラの普通名であり、栗の一變種がコウボフダイシ、クハズ、ノ、クリ(弘法大師食はずの栗)と呼ばれて居る。

[やぶちゃん注:「名簿」小泉八雲が仏教由来の動植物の名称と判断して自身で蒐集した、本篇執筆のスタートとなった自筆資料であるリストを指す。

「コウボフムギ(弘法大師の麥)は學名カレツキス・マクロセフアラの普通名であり、」原文“ Kōbō-mugi, or“Wheat of Kōbōdaishi,”is a common name for the Carex macrocepbala ; ”。

単子葉植物綱イネ目カヤツリグサ科コウボウムギ節スゲ属コウボウムギ Carex kobomugi

である。かなりよく発達した砂浜海岸に植生する代表的海浜植物である。ウィキの「コウボウムギ」によれば、『名前の弘法麦の由来は、かつて茎の基部の分解した葉鞘の繊維が筆を作るのに使われた事から、筆ならば』、『弘法大師(空海)様だ、というようなことであるらしい。別名としてフデクサというのもある』とある。小泉八雲の“ Carex macrocepbala 」は、恐らく、嘗つて同種の変種としてコウボウムギが扱われていた際の原種名と思われる。欧文の書籍の本種の注に“ Carex macrocepbala var. kobomugi という記載を見出せるからである。脱線だが、私は「弘法麦」というと、無条件反射で、偏愛する芥川龍之介の「彼」を想起してしまう人間である。

「栗の一變種がコウボフダイシ、クハズ、ノ、クリ(弘法大師食はずの栗)と呼ばれて居る。」原文は“ a variety of chestnut is called Kōbōdaisbi-kawazu-no-kuri, ―“The Chestnut that Kōbōdaishi did not eat. ”で「kawazu」はママ。これはムクロジ目ムクロジ科トチノキ属トチノキ Aesculus turbinata の地方異名である。月刊『杉』WEB版の岩井淳治氏の『いろいろな樹木とその利用/第18回 「トチノキ」』に、多様な異名一覧が出る中に、「コウボウダイシクワズノクリ」がある。岩井氏は『コウボウダイシという言葉が出てきますが、ある日、栗を煮ていたおばあさんのところに行脚していた弘法大師が通りがかり、栗を所望したところ』、『「これは苦いからダメだ」と断ったため、それ以後』、『苦くなったとの話があります』と記しておられる。そこで栃餅(とちもち)の製法が詳しく記されている通り、縄文以来、食用とされてきたが、渋抜き(トチの実にはサポニン・アロインを含み、直接、食用することは出来ない)をするために非常な手間がかかる。それを以って「食わずの栗」としたものである。この話、私は四国の話として知っている。過去に電子化したものの中に確かにあったはずなのだが、見出せない。発見次第、追記する。

 

 植物または生物の名で佛敎の習慣、傳說、儀式若しくは信仰に關係を有つたのが多くある。バウズ(僧。英語のボンズの原[やぶちゃん注:「もと」。])といふ語が種々な植物名に與へられて居る。異つた三つもの草に、日本の方々異つた處で、バウズグサ(僧の草)の名を附けて居る。筑前の方言では一種の海龜をウミバウズ(海の僧)と呼んで居る。序だから言ふが、この一名は日本の繪本に能く出て來る或る神話的な海の怪物にも與へて居る名である。佛敎傳說のある有名なボオ・トジィの名は、日本では學名フイクス・レリジオサに與へられて居る計りで無く、普通にボダイジュ(ボデイドゥルマ)と呼んで居る學名ティリア・ミクエリアナにも與へられて居る。春分(しゆんぶん)の佛敎大祭卽ちヒガン(彼岸)の祭は、その時分に開花する二種の植物に名を提供して居る。ヒガンザクラ(彼岸櫻)(學名プルヌス・ミクエリアナ)とヒガンバナ卽ち『彼岸の花』(學名ライコリス・ラディアタ)とがそれである。我々英人が『ヂヨッブス・ティアズ』と唱へて居るものは日本ではズズダマ卽ち數珠玉と呼ばれて居り、鳩の一種に――恐らく其斑紋の故であらう――ズズカケバト(數珠掛け鳩)といふがある。學名アリウム・ヸクトリアレはギヤクジヤニンニク(行者の葫[やぶちゃん注:「大蒜」(ニンニク)を指す別字。]。『ギヤウジヤ』とは英語のハアミツトを言ふ佛敎の言葉)と呼ばれて居り、英國のブリーディング・ハートの日本の普通名はケマンサウ卽ち『華鬘草』である。多分その花がケマンに、卽ち佛陀の像の頭上に置く裝飾の華鬘に、似て居るからの稱呼であらう。恐らくは斯んな佛敎的稱呼のうちで一番奇妙なのは、英語のヲータア・エーラムが有つて居るものであらう。その日本名コクウゼンサウは文字通りに言ふと『坐禪をして居る小さな草』である。

[やぶちゃん注:「バウズ(僧。英語のボンズの原])」“The word bōzu, "priest" — (the origin of our word “bonze””。「bonze」(バァンズ)は英語で「仏教の僧侶」を指し、日本語由来である。なお、「priest」は広義には「聖職者」であるが、狭義には「カトリックの司祭」を指す。

「異つた三つもの草に、日本の方々異つた處で、バウズグサ(僧の草)の名を附けて居る」「坊主草」の異名を持つものは、ネットで調べると、

〇シダ植物門トクサ綱トクサ目トクサ科トクサ属スギナ Equisetum arvense

〇コショウ目ドクダミ科ドクダミ属ドクダミ Houttuynia cordata

〇シソ目シソ科クサギ(臭木)属クサギ Clerodendrum trichotomum

・単子葉植物綱イネ目ホシクサ科ホシクサ属 Eriocaulon のホシクサ(星草)類

・単子葉植物綱ラン目ラン科オニノヤガラ(鬼の矢柄)属オニノヤガラ Gastrodia elata(薬用植物)

等があった(他にも恐らくは別な種の地方名にあろうとは思う)。スギナ以外は、花や萼や果実の様子を坊主の頭や僧衣に見立てたものであるが、臭気があったり、スギナのように雑草であったりするところを見ると、僧を卑称した「糞坊主」の傾向が強く感じられるようにも思う。まず、小泉八雲の言う三種は、誰もが、今でも知っている馴染みの、頭の三種と見て差し支えあるまいとは思う。

「筑前の方言では一種の海龜をウミバウズ(海の僧)と呼んで居る」大槻文彦の「言海」に、

   *

うみ-ば(ボ)うず(名)海坊主 ㈠うみがめノ大ナルモノ。(筑前)㈡海上ニ現ハルト云フ妖怪ノ名。

   *

と出るから、小泉八雲の言う「一種」は、爬虫綱カメ目潜頸亜目ウミガメ上科 Chelonioidea の大型成体個体の意で採るべきであろう。

「佛敎傳說のある有名なボオ・トジィ」“The name of the famous Bo-tree of Buddhist”。「Bo-tree」は、ブッダが、その木の根元に座って悟りを得たとされる「菩提樹」の英名。

「日本では學名フイクス・レリジオサに與へられて居る」イラクサ目クワ科イチジク属インドボダイジュ Ficus religiosa。ブッダ菩提(=発心)所縁のそれは本種である。

「普通にボダイジュ(ボデイドゥルマ)と呼んで居る學名ティリア・ミクエリアナにも與へられて居る」中国原産で、以上の真正の「菩提樹」の代わりに日本の寺院では盛んに植えられている、アオイ目アオイ科 Tilioideae 亜科シナノキ属ボダイジュ Tilia miqueliana のこと。御覧の通り、真のインドボダイジュとは類縁関係は全くない。一説に、日本へは臨済宗の開祖である栄西が中国から持ち帰ったと伝えられている。

「ヒガンザクラ(彼岸櫻)(學名プルヌス・ミクエリアナ)」““Higan cherry-tree”( Prunus miqueliana )”。“ Prunus miqueliana ”は野生種であるバラ亜綱バラ目バラ科サクラ属シダレザクラ Cerasus itosakura のシノニムであり、「彼岸桜」、則ち、サクラ属エドヒガンも同じく Cerasus itosakura であるから、問題ない。

「ヒガンバナ卽ち『彼岸の花』(學名ライコリス・ラディアタ)」単子葉植物綱キジカクシ目ヒガンバナ科ヒガンバナ亜科ヒガンバナ連ヒガンバナ属ヒガンバナ Lycoris radiata 。学名は音写するなら「リコリス・ラジアータ」である。私は六年前、本種の本邦での異名を調べたことがある。「曼珠沙華逍遙」を見られたい。……そうだ……先だって、家の斜面に亡き母が植えた白い曼珠沙華が咲いていた……「白い曼珠沙華」の花言葉は……赤いヒガンバナのいいところ、しかないのだ……「また会う日を楽しみに」……「想うはあなた一人」……アリスよ……その通りに……なってしまったなぁ…………

「我々英人が『ヂヨッブス・ティアズ』と唱へて居るものは日本ではズズダマ卽ち數珠玉と呼ばれて居り」「ヂヨッブス・ティアズ」の原文は“Job's Tears”。「ヨブの涙」! これは辛気臭い和名より遙かにいい! いやいや! 英名だけじゃないんだ! 学名も、

単子葉植物綱イネ目イネ科ジュズダマ属ジュズダマ Coix lacryma-jobi

なんだ! 種小名中の「lacryma」(ラクリマ)もラテン語で「涙」の意なのだ! 私は幼年期の記憶に繋がっているジュズダマが、大好きなのだ!

「ズズカケバト(數珠掛け鳩)」ハト目ハト科キジバト属ジュズカケバト Streptopelia risoria 。全体に淡い灰褐色であるが、後頸部に半月状の黒輪があることに由る和名である。

「學名アリウム・ヸクトリアレはギヤクジヤニンニク(行者の葫。『ギヤウジヤ』とは英語のハアミツトを言ふ佛敎の言葉)と呼ばれて居り、」“ The Allium victoriale is called Gyojaninnihu, or“Hermit's garlic”(“gyōja”being the Buddhist term for hermit) ; ”。単子葉植物綱キジカクシ目ヒガンバナ科ネギ亜科ネギ属ギョウジャニンニク亜種ギョウジャニンニク Allium victorialis subsp. platyphyllum 。小泉八雲の表示した学名は標準種のシノニムである。

「英國のブリーディング・ハートの日本の普通名はケマンサウ卽ち『華鬘草』である」“ the popular Japanese name for the Bleeding-heart is Keman-sō ”。キンポウゲ目ケシ科ケマンソウ亜科ケマンソウ属ケマンソウ Lamprocapnos spectabilis ウィキの「ケマンソウ」によれば、花期は四~六月で、『斜めに伸びた総状花序にコマクサに似たハート型の花を付ける。花茎はアーチ状に湾曲する。花茎一本に花が最大で』十五『輪ほど釣り下がって咲き、あたかも鯛が釣竿にぶら下がっているように見える』ことから「タイツリソウ(鯛釣草)」の異名も持つ、但し、『全草、特に根茎と葉にビククリン、プロトピンなどを含』む有毒植物である。

「ケマン」「佛陀の像の頭上に置く裝飾の華鬘」仏堂における荘厳具のひとつ。「花鬘」「花縵」とも書く。梵語の「クスマ・マーラー」の漢訳で、「倶蘇摩摩羅」と音写される(倶蘇摩が花、摩羅が「蔓」、「髪飾り」の意)。金銅・牛革製の円形又は楕円形のものに、唐草や蓮華を透かし彫りにして、下縁に総状の金物や鈴を垂らしたものである。参照したウィキの「華鬘」によれば、『元々は生花で造られたリング状の環(花環)で、装身具であったものが僧などに対して布施されたものと考えられている。本来』、『僧は出家したものであり』、『自分の身を飾ることができないことから、布施された花環を仏を祀る仏堂を飾るものへと変化したものと見られる。それが恒常化して、中国や日本では金銅製などの金属でできたものや、木製・皮製のものなどで造られるようになった。インドでもさまざまな素材で作られていた』。『形状は、主に団扇型でその頂に紐で吊るすための環がついており、宝相華文や蓮華文などのほか、迦陵頻伽や種子などが施されたものがあり、揚巻結が付されている』とある(リンク元に画像有り)。

「英語のヲータア・エーラムが有つて居るものであらう。その日本名コクウゼンサウは文字通りに言ふと『坐禪をして居る小さな草』である。」原文は、

“Perhaps the water-arum has the most curious of all such Buddhist appellations : its Japanese name, Kokuzen-so literally signifies the“Small-sitting-in-Dhyâna--meditation-plant.”

である。「water-arum」は外観は小型のミズバショウ(サトイモ科ミズバショウ属ミズバショウ Lysichiton camtschatcensis )といった形態をしている、単子葉植物綱オモダカ目サトイモ科ヒメカイウ属ヒメカイウ Calla palustris を指し、当該種は「ミズザゼン」(水座禅)の異名を持っている。]

 

 センニン(普通之を英語ではジイニアスとかフエアリとか譯するが、本來はリシである。リシとは難行苦行の效によつて超自然的な威力を得て、その生命無限な者)といふ語はたまたま植物名に見える。英語のクレマティスの一變種にセンニンサウ(仙人草)といふがあり、英語のカクタスの一種にセンニンシヤウ(仙人掌)といふ奇怪な名稱を貰つて居るのがある。

[やぶちゃん注:面倒なので、最初に全文を原文で示す。

 The word Sennin,— commonly translated as “Genius”or“Fairy,”but originally meaning Rishi, — a being who has acquired supernatural power and unlimited life by force of ascetic practices, — occasionally appears in plant-names. A variety of Clematis is known as Sennin-sō, or“Fairy-weed”;  and a kind of cactus has received the grotesque appellation of Sennin-shō, or“Sennin's-Palm,”—  the paim of the hand being referred to.

「Genius」天才・鬼才・非凡な才能の持ち主。

「Fairy」フェアリー。妖精。

「リシ」「Rishi」サンスクリット語の英訳。ヴェーダ聖典を感得したとされる神話伝説上の「聖者」あるいは「賢者達」を指し、漢訳仏典などでは「仙人」などとも訳され、インド学では「聖賢」などと訳される(ここはウィキの「リシ」に拠った)。

「クレマティス」「Clematis」キンポウゲ目キンポウゲ科キンポウゲ亜科 Anemoneae センニンソウ属 Clematisウィキの「クレマチス」によれば、『園芸用語としては、このセンニンソウ属の蔓性多年草のうち、花が大きく観賞価値の高い品種の総称』で、『修景用のつる植物として人気があり、「蔓性植物の女王」と呼ばれている』とある。

「センニンサウ(仙人草)」センニンソウ属センニンソウ Clematis ternifloraウィキの「センニンソウ」によれば、蔓『性の半低木』の一種で、『属名(Clematis)は「若枝」を意味し、種小名(terniflora)は』「三枚葉の」を『意味する』。『和名は痩果に付く綿毛を仙人の髭に見たてたことに由来する』。『別名が「ウマクワズ(馬食わず)」、有毒植物で』『馬や牛が絶対に口にしないこと』に由来する、とある。

「英語のカクタスの一種にセンニンシヤウ(仙人掌)といふ奇怪な名稱を貰つて居るのがある」「cactus」はサボテン(ナデシコ目サボテン科 Cactaceae)のこと。思うに、「仙人掌」に最もふさわしいのは、サボテン科の中でも、ウチワサボテン亜科オプンティア属オプンティアOpuntia のそれであろう。学名属名のグーグル画像検索をリンクさせておく。]

 

 人間を食ふ鬼といふ意味の梵語のヤクシヤといふ語は、その日本化された形のヤシヤとなつて、種々な植物名に見える。學名アルドゥス・フイルマの毬果[やぶちゃん注:「きうくわ(きゅうか)」。]は、繪畫的にヤシヤブシ(夜叉節(ぶし))と呼ばれて居り、或る水草はヤシヤビシヤク(夜叉柄杓)といふ妙な名で知られて居る。

[やぶちゃん注:やはり原文総てを示す。

 The Sanscrit term Yaksha, signifying a mandevouring demon, appears in several plant-names under its Japanese form, — Yasha.  The cone of the Aldus firma is picturesquely called Yashabushi, or “Yaksha's-joint”;  and a water-plant b known by the curious name of Yasba- bishaku, or “Yaksha's Ladle.”

「人間を食ふ鬼といふ意味の梵語のヤクシヤ」夜叉(サンスクリット語ラテン文字転写:yakṣa/パーリ語同前yakkha/「暴悪」「捷疾鬼」「威徳」等と漢訳される)は古代インド神話の鬼神。「薬叉(やくしゃ)」とも称する。後に仏教に取り入れられて護法善神の一尊となった。ウィキの「夜叉」によれば、『夜叉には男と女があり、男はヤクシャ(Yaksa)、女はヤクシーもしくはヤクシニーと呼ばれる。財宝の神クベーラ(毘沙門天)の眷属と言われ、その性格は仏教に取り入れられてからも変わらなかったが、一方で人を食らう鬼神の性格も併せ持った。ヤクシャは鬼神である反面、人間に恩恵をもたらす存在と考えられていた。森林に棲む神霊であり、樹木に関係するため、聖樹と共に絵図化されることも多い。また水との関係もあり、「水を崇拝する(yasy-)」といわれたので、yaksya と名づけられたという語源説もある。バラモン教の精舎の前門には一対の夜叉像を置き、これを守護させていたといい、現在の金剛力士像はその名残であるともいう』とある。

「アルドゥス・フイルマ」「Aldus firmaブナ目カバノキ科ハンノキ属ヤシャブシ Alnus firma。漢字表記は「夜叉五倍子」が一般的。ウィキの「ヤシャブシ」によれば、『ヤシャブシ(夜叉五倍子)の名の由来は、熟した果穂が夜叉にも似ていることから。また果穂はタンニンを多く含み、五倍子』(フシ:ムクロジ目ウルシ科ヌルデ属ヌルデ変種ヌルデ Rhus javanica var. chinensis の葉に昆虫綱半翅(カメムシ)目同翅(ヨコバイ)亜目吻亜目アブラムシ上科アブラムシ科ワタアブラ亜科ゴバイシアブラ属ヌルデシロアブラムシ Schlechtendalia chinensis が寄生すると、大きな虫癭(ちゅうえい)を作り、そこには黒紫色のアブラムシが多数、詰まっている。この虫癭はタンニンを豊富に含み、革鞣(なめ)しや黒色染料の原料となる)『の代用(タンニンを多く含有する五倍子は古来、黒色の顔料、お歯黒などに使われてきた)としたためといわれる』とある。

「毬果」「球果」とも書く。マツやスギなどに見られる、球形や楕円形をした果実を指す。通常は松傘のように胚珠が成熟して木化した鱗片を附け、それに二個の種子が出来る。木化せずに肉質となる種もある。

「水草」「ヤシヤビシヤク(夜叉柄杓)」「水草」は不審。寄生性落葉低木になら、ユキノシタ目ユキノシタ科スグリ属ヤシャビシャク Ribes ambiguum がある。本種については、サイト「岡山理科大学 生物地球学部 生物地球学科 旧植物生態研究室(波田研)」内のこちらを参照されたい。水草のヤシャビシャクを知っておられる方があれば、是非、御教授願いたい。

 

 植物、鳥類、魚類併びに蟲類の日本名に――丁度英吉利の民間の言葉に、デヴルス・エプロンとかデヴル・ウツドとかデヴルス・フインガとかデヴルス・ホースとかデヴルス・グーニング・ニードルとかいふやうな植物名昆蟲名があるやうに ――英語のディモン或はデヴルに營たる佛敎語の『オニ』といふ語を接頭字に附けて居るのが甚だ多い。英語のタイガ・リリーは日本ではそれと同樣奇妙なオニユリ(鬼百合)といふ名を有つて居る。英語のコイツクスの一種はオニズズダマ(鬼の數珠玉)と呼ばれて居る。英語のバー・マリゴールドはオニバリ(鬼の針)と呼ばれて居り、一種の水草で蓮の繁殖に害を與へるものを通常オニバス(鬼蓮)と唱へて居る。このオニといふ接頭字は、多分幾百もの植物併びに動物の俗名に、附けられて居ることであらう。自分が集めたものでもその數七十一を下らぬ。が然し、そのうち興味のあるものは尠い。

[やぶちゃん注:最初に「ディモン」と「デヴル」の違いを示しておく。「Demon」(デーモン)はギリシャ語の「ダイアモーン」が語源で、本来は「精霊」・「鬼神」を意味する広汎に善でも悪でもあった超自然的存在を指したが、宗教・神話・伝承などに組み込まれて、零落し、「悪霊」を指すようになったもの。一方の「Devil」(デヴィル/デビル)は、ヘブライ語の「サタン」のギリシャ語訳「ディアボロス」が語源とされ、もとから「邪悪」という概念を人格化したものであり、主にキリスト教に於いて唯一神ヤハゥエに敵対する邪悪な存在を指す。

「デヴルス・エプロン」原文“Devil's-apron”。海藻の昆布類、不等毛植物門褐藻綱コンブ目コンブ科 Laminariaceae のコンブ類を広く指す。平井呈一氏の恒文社版の訳(一九七五年)「動植物の仏教的名称」では、平井氏は丸括弧で割注を入れておられ、そこでは『(赤エイの一種)』とされておられる。膝を打ちたくなるほどありそうな異名なのだが、調べてみても、ヒトでも死に至ることがある有毒な棘を持ったエプロン状のアカエイ(Red stingray:軟骨魚綱板鰓亜綱トビエイ目アカエイ科アカエイ属アカエイ Dasyatis akajei )や、その近縁種に、英名で「悪魔のエプロン」というのは見当たらなかった。ちょっと淋しかった。

「デヴル・ウツド」“Devil-wood”。シソ目モクセイ科 Cartrema Cartrema Americana英文ウィキの同種に別名を“devilwood”とする。由来は判らないが、早春に咲くその花は、強烈な芳香を放つらしいから、それに由来するか。しかし、平井氏は割注で『(ヌルデ)』とされておられる。これは無論、ムクロジ目ウルシ科ヌルデ属ヌルデ変種ヌルデ Rhus javanica var. chinensis のことだ。ウルシ(ウルシ属ウルシ Toxicodendron vernicifluum)ほどではないが、稀にかぶれる人もいる。しかし、「悪魔の」と冠するほどではあるまい。

「デヴルス・フインガ」“Devil's-fingers”。菌界担子菌門菌蕈(きんじん)亜門真正担子菌綱スッポンタケ目スッポンタケ科アカカゴタケ属Clathrus archeri のこと。同種の英文ウィキに別名を“devil's fingers”とする。他に、「Octopus Stinkhorn fungi」の異名を持ち、本邦の記事では「タコスッポンタケ」(正式和名は恐らくまだない)などと呼んでいるものもある。オーストラリアとタスマニアを原産地とし、現在は北米・アジア・ヨーロッパなど世界各国に広がっている。悪臭を放ち(蠅媒(じょうばい)茸である)、その卵形の本体から赤い如何にもタコ足っぽいエグい胞子体を放散する器官が延び出して展開する。私はよく訪ねるサイト「カラパイア」の『キノコホラーサスペンス:「悪魔の指」の異名を持ち、強烈な死臭を放つキノコ「タコスッポンタケ」』で六年前に動画を見て知っていた。この動画はまだおとなしい方である。毒があるわけでも(逆に食用可)、実際に臭さが判るわけでもないが、かなり強烈である。リンクを見るかどうかは、さて、自己責任で。但し、平井氏は『(サボテンの一種)』とされておられる。【追記】私は、この注を書いた数年後、京の大原野の竹林で、同科のスッポンタケ属キヌガサタケ Phallus indusiatus の展開の妙技を親しく観察した。美しかった。

「デヴルス・ホース」“Devil's-horse”。これは「Devil's coach horse beetle」(「悪魔の馬車馬甲虫」)のことではなかろうか? 本邦には棲息しない鞘翅(コウチュウ)目カブトムシ亜目ハネカクシ下目ハネカクシ上科ハネカクシ科 Ocypus Ocypus olens 英文ウィキの同種の記載を見ると、“Devil's steed”の別名が見える。「steed」は「乗馬用の馬」の意である。本種は腹部に二つの臭腺を持っていてそこから悪臭を放ち、また、強力な顎を持っており、咬まれるとかなり痛むとある。また、本種は中世以降、実際に悪魔との関係性が伝承として語られているらしい。さらに、イギリスの伝承では、「イヴが食べた林檎の種を、この虫が食った」と伝えるともあり、それこそ「原罪の虫」なのである。平井氏は『(カマキリ)』とされるが、う~ん、流石に、それでは、この恐るべき虫と対するには――役不足――という感じがする。

「デヴルス・グーニング・ニードル」“Devll's-daming-needle”。「daming-needle」は「dam」(繕う)ための「needle」(針)で、「かがり針」のことである。さても、これは意外なことに(というか、私は小さな時から、時々は、トンボを捕まえることは出来ても、その翅の生えている背を――凝っと見ているうちに――気持ちが悪くなる気弱な少年であったのだが)「トンボ」の悪しき異名らしい。平凡社「世界大百科事典」の「蜻蛉」を見ると(コンマを読点に代えた)、『欧米では元来、トンボを益虫としたり、勇ましい、あるいは魅力のある虫と考えることはなかった。子どもがトンボとりに夢中になることはないといってよい。トンボはむしろ不吉な、気味の悪い虫であるとされることが多く、その別名として、英語 darning needle(〈かがり針〉の意)とか、同じく英語 devil’s darning needle、ドイツ語 Teufelsnadel、フランス語 aiguille du diable(いずれも〈悪魔のかがり針〉の意)とか、英語 witch’s needle(〈魔女の針〉の意)というのがある。これはトンボがその長いしっぽを』、『針のように使って、人間の耳を縫いつけてしまうとか、子どもがうそをついたり、いけないことをいったりすると唇を縫ってしまうという俗信に由来する。親がそういって小さい子を脅すことがあった。北アメリカでは mosquitohawk(〈蚊取り鷹〉の意)と呼ぶことがあり,これは日本人にも理解しやすいが、snake doctor(〈蛇の先生〉あるいは〈蛇の医者〉の意)という奇異な別名もある。蛇に危険が近づくと』、『トンボがそれを蛇に知らせてやるという迷信に基づく。同様に flyingadder および adder fly(〈飛ぶマムシ〉の意)ともいう』。『フランスの古い迷信でもトンボと爬虫類や両生類などが結びつけられることが多く、おそれられ、いやがられてきたようである。サンショウウオとトンボを同じ名で呼び、かまれると危険であると思っている地方や、洗濯女などが、トンボに』「刺されないよう」に『おまじないの文句を唱えていた地方がある。またトンボの翅で手が切れるとか、トンボに額を打たれると必ず死ぬ』、『とかいわれていた』とある。平井氏は『(北米の一地方にいるカトンボの一種)』とかなり細かく、絶対的自信を持って割注されておられる。平井氏には具体に種を指定して欲しかった。

「英語のタイガ・リリー」“The tiger-lily”「は日本ではそれと同樣奇妙なオニユリ(鬼百合)といふ名を有つて居る」単子葉植物綱ユリ目ユリ科ユリ属オニユリ Lilium lancifolium のこと。和名の由来については、花びらに黒い斑点模様が沢山あり、橙色がかかった赤めの花びらに、黒のだんだらの斑点が目立つ点、花の色や形がやや特異に反って見えること等から、「赤鬼」を連想させたとする説があるが、本邦の接頭語としての「鬼」は「オニヤンマ」のように「大きい・強い」という傾向が強いから、これは同属のヒメユリ(姫百合:Lilium concolorと比べて「大きい」という意味とする説を私は支持したい。この用法については、次の段落で小泉八雲も述べている。

「英語のコイツクス」(coix)「の一種はオニズズダマ(鬼の數珠玉)と呼ばれて居る」coix」は既出既注の単子葉植物綱イネ目イネ科ジュズダマ属ジュズダマ Coix lacryma-jobi の属名。斜体になっていないが、これは「Coix seed」などと「ジュズダマ」の一般名詞としての使用法があるから、まあ、問題ない。と言うより、当時は学名を斜体にするのは、絶対規則ではなかった。

「英語のバー・マリゴールド」(bur-marigold)「はオニバリ(鬼の針)と呼ばれて居り」Bur marigold」は、黄色の花を咲かせ、毛皮や衣服にくっつく刺(とげ)のある実(所謂、ご存じ「ひっつき虫」である)を持つ、キク亜綱キク目キク科キク亜科センダングサ属 Bidens の数種の植物の総称。サイト「跡見群芳譜」の「せんだんぐさ(栴檀草)」( Bidens biternata )の「訓」の項に、小野蘭山述の「本草綱目啓蒙」を引いて『鬼針草に、「センダングサ キツネバリ備後 カラスバリ奥州 石クサ越後 オニバリ キツネノヤ キツネノヤリ ハサミグサ ヌスビト播州。衣服ニ』實『ノ著モノヲ』總『テヌスビトゝ云、イトロベトモ云 キツネノハリ同上 モノツキ長州 オニノヤ藝州 モノグルヒ』豐『前 シブツカミ勢州 ヤブヌスビト ヌスビトノハリ共ニ同上」』と、冒頭に「鬼針」が出ている

「オニバス(鬼蓮)」スイレン目スイレン科オニバス属オニバス Euryale ferox 「蓮の繁殖に害を與へるもの」を「鬼」の由来のように小泉八雲は書いているが、この「鬼」は、植物全体に大きな刺(遂げ)が生えていることに由来し、特に水面に広がる大きな葉の表裏に生える刺は実際に硬く鋭い。ウィキの「オニバス」によれば、『農家にとってオニバスは、しばしば排除の対象になることがある。ジュンサイなどの水草を採取したりなど、池で農作業を行う場合、巨大な葉を持つオニバスは邪魔でしかないうえ、鋭いトゲが全体に生えているために嫌われる羽目になる。また、オニバスの葉が水面を覆い』、『水中が酸欠状態になったため、魚が死んで異臭を放つようになり、周囲の住民から苦情が出たという話もある』。『水が少ない地域に作られるため池では水位の低下は死活問題に直結するが、オニバスの巨大な葉は水を蒸散させてしまうとされて歓迎されないこともあった』とある。しかし、『日本では、環境の悪化や埋め立てなどで全国的に自生地の消滅が相次ぎ』、『絶滅が危惧されており』、本邦では、嘗つては『宮城県が日本での北限だったが』、『絶滅してしまい、現在では新潟県新潟市が北限となっている』とある。]

 

 日本の佛敎で認められて居る一種の化物(ばけもの)を意味して居る、キジン或はキシンといふ語は、同じくまた接頭字として使用されて居る。例を舉ぐれば、英語のニードル・グラスの一種はキシンサウ(鬼神草)として知られて居る。一種の女化物を意味して居る、今一つの佛語のキヂヨといふ語が、或る蘭の普通名に見えて居る。キヂヨラン(鬼女蘭)がそれである。それからまた、鬼(おに)とか化物とかの意味の語の省略のキといふ接頭字があつて、これが時々植物名に現はれて居る。例へば學名パルダンサス・チネンシスは日本ではキセン(意味は『鬼扇』)と呼ばれて居る。こんな惡魔に因んだ名は、ただ單にその恰好が醜惡であるか異常であるかの爲めでは無く、著しく大きいが爲めに植物なり動物なりに與へてあるといふことは、述べて置く價値がある。例へば一種の告天子[やぶちゃん注:「ひばり」。]をオニヒバリ(鬼告天子)と呼んで居るのは、偶〻それが普通の野告天子[やぶちゃん注:「のひばり」。]よりも餘程大きいからである。また非常に大きな或る蜻蛉を同じ理由でオニヤンマ(鬼蜻蛉)と名づけて居る。

[やぶちゃん注:「英語のニードル・グラス」(needle-grass)「の一種はキシンサウ(鬼神草)として知られて居る」needle-grass」は単子葉植物綱イネ目イネ科イチゴツナギ亜科 Pooideae に属する Stipeae Stipa 属の中の、細く伸びた草体を持つ一群を指す。但し、同属そのものは本邦には植生しないようであるから、小泉八雲の言う「一種」は誤りである(実際、以下に見る通り、縁もゆかりもない双子葉植物綱の全くの別種である)。ここまでは英文ウィキの「Stipaに拠った。そこに、同属を構成するグループとして「feather grass」・needle grass・「spear grass」を掲げてある。「キシンサウ(鬼神草)」はキク科センダングサ属コバノセンダングサ Bidens bipinnata の異名個人サイト「三河の植物観察」のこちらがよい。

「キヂヨラン(鬼女蘭)」キク亜綱リンドウ目ガガイモ科キジョラン属キジョラン Marsdenia tomentosa ウィキの「キジョラン」によれば、蔓『性の多年草の』一『種』で、『有毒』。『木質になる』。『葉は対生し、卵円形で大きく、基部は円脚か浅い心脚、全体としてはややハート形に近くなる。葉の表面は深緑で、無毛、少しつやがある。花は葉腋から出て』、二~三センチメートルの『短い柄の先に散形の花序をつける。個々の花は白で、径約』四ミリメートルで、花期は八~十一月。『花に対して果実は大きく、楕円形で長さ』十三~十五センチメートルにもなり、蔓から『ぶらさがる。キジョランの実は冬が近づくと、はじけて中から綿毛が飛び出す。和名は、その綿毛の白毛を鬼女の髪に見立てたことに由来する』。『朝鮮半島南部と日本に分布する。日本では関東以西の本州、四国、九州、沖縄に分布する』。『照葉樹林の林内から林縁に生え、木にも登るが、樹冠を覆うような生え方はしない。長距離移動することで知られているチョウのアサギマダラ』(鱗翅(チョウ)目アゲハチョウ上科タテハチョウ科マダラチョウ亜科アサギマダラ属アサギマダラ Parantica sita )『の幼虫の食草とされ、卵が産み付けられる』とあるから、八雲先生……鬼女、どころか……鬼子母神、ですよ…………

なお、小泉八雲は「或る蘭の普通名」と言っているが、本種は「蘭(ラン)」とつくものの、ラン(単子葉植物綱キジカクシ目ラン科 Orchidaceae)とは縁もゆかりもないので注意されたい。

「學名パルダンサス・チネンシス」( Pardanthus chimnsis )「は日本ではキセン(意味は『鬼扇』)と呼ばれて居る」「鬼扇」とか「きせん」の異名では全く検索に掛かってこなかったが、小泉八雲が学名を記して呉れていたお蔭で発見出来た。現在は属が変更され、単子葉植物綱キジカクシ目アヤメ科アヤメ属ヒオウギ Iris domestica の旧学名のシノニム英文ウィキの「Iris domesticaの「Synonyms」に出る)である。ウィキの「ヒオウギ」によれば、『従来はヒオウギ』(檜扇)『属(Belamcanda)に属するとされ、B. chinensisの学名を与えられていたが』二〇〇五『年になって』、『分子生物学によるDNA解析の結果から』、『アヤメ属に編入され、現在の学名となった』とある。『ヒオウギは山野の草地や海岸に自生する多年草で』、高さ六十~百二十『センチメートル程度。葉は長く扇状に広がり、宮廷人が持つ檜扇に似ていることから命名されたとされる』。『別名に烏扇(からすおうぎ)』がある。『花は』八『月ごろ咲き、直径』五~六『センチメートル程度。花被片はオレンジ色で赤い斑点があり放射状に開く。午前中に咲き夕方にはしぼむ一日花である。種子は』四『ミリメートル程度で黒く艶がある。本州・四国・九州に分布する』。『黒い種子は俗に射干玉(ぬばたま・ぬぼたま・むばたま)と呼ばれ、和歌では「黒」や「夜」にかかる枕詞としても知られる。烏羽玉、野干玉、夜干玉などとも書く』。『和菓子の烏羽玉(うばたま)はヒオウギの実を模したもので、丸めた餡を求肥で包んで砂糖をかけたものや』、『黒砂糖の漉し餡に寒天をかけたものなどがある』。『花が美しいため』、『しばしば栽培され、生花店でも販売される。関西地方中心に名古屋から広島にかけて、生け花の』七『月初旬の代表的な花材である』。『特に京都の祇園祭や大阪の天神祭では、床の間や軒先に飾る花として愛好されている』。『生花はほとんどが徳島県神山町産のものである』とある。

「告天子」スズメ目スズメ亜目ヒバリ科ヒバリ属ヒバリ Alauda arvensis であるが、本邦には、

亜種ヒバリ Alauda arvensis japonica

が周年生息(留鳥)し(北部個体群や積雪地帯に分布する個体群は、冬季になると、南下する)、他に、

亜種カラフトチュウヒバリ Alauda arvensis lonnbergi

亜種オオヒバリ Alauda arvensis pekinensis

が冬季に越冬のために本州以南へ飛来(冬鳥)もするから、ここで「オニヒバリ(鬼告天子)」と呼んでいるのは、大きなヒバリではなくて、有意に体が大きい最後のオオヒバリである可能性も視野に入れておく必要がある。なお、雲雀(ヒバリ)の博物誌は、私の「和漢三才圖會第四十二 原禽類 鷚(ひばり)(ヒバリ)」を参照されたい。

「オニヤンマ(鬼蜻蛉)」『小泉八雲/民間伝説拾遺/「蜻蛉」(大谷正信訳)の「一」』の「十四」や「六、トノサマトンボ」を参照。

 

 動物幷びに植物の佛敎に緣のある名に靈的なのが多い。或る綠色の可愛らしい螽蟖[やぶちゃん注:「きりぎりす」。]にホトケノウマ(佛の馬)といふがある。この蟲の頭は恰好が馬の頭に奇妙に似て居る。が、『ホトケ』といふ語は――俗衆の信仰では善人は總て佛になると想はれて居るから――死者の靈といふ意味を有つて居る。だから、ホトケノウマといふ名の本當の意味は『死者の馬』である。さて、七月の三日間の死者の祭中、靈のうちで、昆蟲の助を藉るか[やぶちゃん注:「たすけをかりるか」。]、又は實際昆蟲の姿となつて、己が家鄕を或は己が前の友人の家を訪ふものが多い、と信ぜられて居る。で、この螽蟖の名は影の如き訪客が馬として用ゐる、といふ意を實際含んで居るのである。……それからまた、シヤウリヤウといふ語――佛式に據つて祀る祖先の靈の總稱、――と或る蜻蛉の名と一緖になつて居るのを見る。シヤウリヤウヤンマ(祖先の靈の蜻蛉)がそれである。シヤウライトンボ(精靈蜻蛉)も、似た意味の言葉のキヤンマも、同じくまたその蟲と不可見世界との關係を仄めかす積(つも)りの名である。等しく薄氣味わるいのは、京都の方言での、英語のモール・クリケットの名である。多分その蟲の地下生活で思ひついた名であらう、――シヤウライムシ(精靈蟲)と呼ばれて居るのである。植物の名稱のうちに。ユウレイダケ(幽靈竹)とか、ユウレイバナ(幽靈花)とか、いふやうな名がまたある。後者は花車な[やぶちゃん注:「きやしや(きゃしゃ)」。「華奢」に同じ当て字。]一種の茸の名で、不適切な名では無いと思ふ。

[やぶちゃん注:「螽蟖」原文“grasshopper”。英語では、「バッタ」・「イナゴ」・「キリギリス」総てを指す。

「ホトケノウマ(佛の馬)」既に『小泉八雲 落合貞三郎他訳 「知られぬ日本の面影」 第十六章 日本の庭 (一一)』にも登場している。そこで私は本種を、

キリギリス科ウマオイ属ハヤシノウマオイ Hexacentrus japonicus

或いは、

ハタケノウマオイ Hexacentrus unicolor

に比定同定した。因みに、前者の名を私は「スイッチョン」と覚えており、「スィーーーッ・チョン」と長く延して鳴き、後者は「シッチョン・シッチョン」と短く鳴く。彼らの御面相は、確かに、馬っぽく、ネットを調べると、「ウマオイ」を出雲では「ホトケノウマ」と言うという記載も現認出来たと記してある。基本的にこれでいいと今も思っている。

「シヤウリヤウヤンマ(祖先の靈の蜻蛉)」「シヤウライトンボ(精靈蜻蛉)」「キヤンマ」『小泉八雲/民間傳說拾遺/「蜻蛉」(大谷正信譯)の「一」』の「十六、シヤウリヤウトンボ」や「十五、キヤムマ」や、当該末の小泉八雲の記述を参照されたい。

「モール・クリケット」“mole-cricket”(改行でダッシュが入っているから、小泉八雲は“molecricket”の積りかも知れない。直翅(バッタ)目剣弁(キリギリス)亜目コオロギ上科ケラ(螻)科 Gryllotalpidae のケラ類であるが、本邦産のそれは、グリルロタルパ(ケラ)属ケラ Gryllotalpa orientalis 属名は「Gryllo」の部分が「コオロギ」、「talpa」が「モグラ」(哺乳綱ガリネズミ形目モグラ科 Talpidae)を意味し、英名の「Mole cricket」も「モグラコオロギ」の意である。私はあの、夜、地面の黄泉に繋がる地下から聞こえてくる「ジー……」「ビー……」というケラの声が、好きだ。

「シヤウライムシ(精靈蟲)と呼ばれて居る」京都では先祖の精霊を「お精霊(しょらい)さん」と呼ぶ。今もそうだ。しかし、もうケラを「しょうらいむし」と呼ぶ京都人は、いなくなってしまったのかも知れない。ネットには全く掛かってこない。何か淋しい気がした。

「ユウレイダケ(幽靈竹)」竹ではなく、ツツジ目ツツジ科シャクジョウソウ亜科ギンリョウソウ属ギンリョウソウ Monotropastrum humile、「銀竜草」の異名である。腐生植物(saprophyte:菌根を形成して生活に必要な有機物を菌類から得ることで生活をする植物群)の代表種である。葉緑素を持たない青白い不思議なそれはまさに「幽霊竹」に相応しい。私は丹沢登山で何度も見かけた。ウィキの「ギンリョウソウ」画像をリンクさせておく。

「ユウレイバナ(幽靈花)」「花車な一種の茸の名」既に出した曼珠沙華(ヒガンバナ)の異名にあるが、ここは「きのこ」とはっきり限定している。しかし、キノコの「ユウレイバナ」を私は知らないのだ。しかも、前のギンリョウソウの異名の一つに「ユウレイバナ」があることも知っているのだ。翻って――素人は「ギンリョウソウ」を見たら「きのこ」と誤認しないだろうか?――私は「誤認する」と思う。――とすれば――小泉八雲は、この「ユウレイダケ(幽靈竹)」と「ユウレイバナ(幽靈花)」が同一のものとは思わずに、前者には実際の「タケ類」を想定誤認し、後者を茸みたような青白く細くて華奢な「銀竜草」を「茸」と誤認して、かく述べたものではなかったろうか? キノコの「ユウレイバナ」があると言われる方は、是非、御教授あられたい。

« 小泉八雲 佛敎に縁のある動植物  (大谷正信譯) / その1 | トップページ | 小泉八雲 佛敎に緣のある動植物  (大谷正信譯) /その3 ~「佛敎に緣のある動植物」~了 »