小泉八雲 蟲の樂師 (大谷定信訳) / 「五」の「クサヒバリ」・「キンヒバリ」・「クロヒバリ」
[やぶちゃん注:本篇については『小泉八雲 蟲の樂師 (大谷定信訳) / 「一」・「二」』を参照されたい。]
ク サ ヒ バ リ
クサヒバリ卽ち『草雲雀』は――アサスズ卽ち『朝鈴』とも、ヤブスズ卽ち『藪鈴』とも、アキカゼ卽ち『秋風』とも、コスズムシ卽ち『小鈴蟲』ともいふが――晝間歌ふ蟲である。非常に小さな蟲で、――ヤマトスズを除いて、これが蟲の合唱者中最も小さなものであらう。
[やぶちゃん注:昆虫綱直翅(バッタ)目剣弁(キリギリス)亜目コオロギ上科コオロギ科クサヒバリ亜科クサヒバリ属クサヒバリParatrigonidium bifasciatum(辞書記載の学名であるが、昆虫愛好家(インセクターは一部の種に関しては昆虫学者より凄かったりする)の複数のページではバッタ目ヒバリモドキ科ヒバリモドキ亜科クサヒバリ属クサヒバリ Svistella bifasciata とするものも有意に見られるので、現在はこちらが正式か)。本邦では本州・四国・九州・沖繩に広く分布する。体形はコオロギに似ているが、ごく小さく、体長は六~八ミリメートルしかない。触角が長い。淡黄褐色を呈するが、♂では黒褐色の不規則な斑紋を持ち、翅には丸みがあって発音器の模様が明瞭で、♀では縦脈を有する。八~十月頃、林縁の低木の葉上や下草の上に見られ、小泉八雲は夜とするが、実際には昼夜を問わず(「フィリリリリリリリ……」と高く美しい声で長く鳴く。古来、鳴く虫の一つとして愛玩されてきた。You Tube のSankogi 氏の「元荒川河原の草雲雀」の鳴き声と、グーグル画像「Svistella bifasciata」をリンクさせておく。なお、本種の小泉八雲自身の飼育体験を素材とした、本作品集から四年後に刊行された作品集「骨董」(明治三五(一九〇二)年刊)の中の名掌品「小泉八雲 草雲雀 大谷正信譯 附・やぶちゃん注」も是非、参照されたい。]
[やぶちゃん注:原文キャプションは、
KUSA-HIBARI (natural size).
クサヒバリ(実物大)。
で、画像の添え辞は、
クサヒバリ
である。]
キ ン ヒ バ リ
キンヒバリ卽ち『全雲雀』は有名な不忍池――東京の上野のあの大きな蓮池――のあたりに非常に澤山居たものである。が、近年稀になつた。東京で今賣るキンヒバリは戶田川や志村から持つて來るものである。
[やぶちゃん注:ヒバリモドキ亜科キンヒバリ属キンヒバリ Natula matsuurai。鳴き声は「鳴く虫研究社」のこちらがよい。
「戶田川」先の「キリギリス」で、現在の埼玉県深谷市戸田川(グーグル・マップ・データ。以下同じ)があるとしたが、そこで別に有力候補として挙げた荒川の旧戸田の渡しがあった附近の荒川の別名と採った場所が、以下の「志村」の北直近なので、すこぶる自然である。
「志村」現在の東京都板橋区志村であろう。]
[やぶちゃん注:原文キャプションは、
KIN-HIBARI (natural size).
キンヒバリ(実物大)。
で、画像の添え辞は、
金ヒバリ
である。]
ク ロ ヒ バ リ
クロヒバリ卽ち『黑雲雀』は稍〻稀なもので、割合高價である。東京附近の田舍で捕るが養殖は出來ぬ。
[やぶちゃん注:これはヒバリモドキ亜科クロメヒバリ属クロメヒバリ Anaxipha longealata のことではあるまいか。「クロヒバリ」では見当たらない。しかし、本種、邦文記事には本種の画像も鳴き声も存在しない。]
[やぶちゃん注:原文キャプションは、
KURO-HIBARI (natural size).
クロヒバリ(実物大)。
で、画像の添え辞は、
クロヒバリ
である。]
[やぶちゃん注:以上はこの本文には出ないが、「大和鈴」で、「三」の値段表に登場し、既注。ヒバリモドキ亜科ヤマトヒバリ属ヤマトヒバリ Homoeoxipha obliterata の異名である。実際には原本ではクサヒバリの解説の横に挿入されてあり、小泉八雲は本種をクサヒバリの近縁種或いは亜種・変種と見ていた可能性が高いか。しかしこれは全くの別種であるので、ここに配しておくこととする。解説と鳴き声は「鳴く虫研究社」のこちらがよい(かなり繊細な鳴き声なので音量を上げないと聴きづらい)。
原文キャプションは、
YAMATO-SUZU (“LITTLE-BELL OF YAMATO”) (natural size).
ヤマトスズ(「大和の小鈴」)(実物大)
で、画像の添え辞は、
ヤマトスヾ
である。]
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